【No1181】歩きながら考える ヤマザキマリ 中央公論新社(2022/09) | 朝活読書愛好家 シモマッキ―の読書感想文的なブログ~Dialogue~

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そんな奇跡を信じて、ページをめくり続けています。

映画になった「テルマエ・ロマエ」の作者としてかろうじて知っているだけでした。

パンデミック下、夫がいるイタリアではなく、日本に長期滞在することになった漫画家であり文筆家であり画家でもあるヤマザキマリさん。

最近は「予定調和」を全うしない未知なる展開が控えている日々を過ごしていると。

 

ヤマザキさんは、世間で起きている事象を見ながら。自分なりの方向性を持って考えて動いています。

過去の苦労を笑い飛ばす明るさを持ちつつ、冷静沈着で達観し俯瞰した観点から世の中を見ています。

彼女の示唆に富んだ思いと彼女目線のユーモアが豊富に溢れて出ている箇所が多く見受けられました。

 

「新しい習慣に対する対応」が定着したという箇所があり、ヤマザキさんなりのパンデミック時の過ごし方がわかります。

4P

ただ実際には、たちどまることで得たものが非常に多かったのです。

より深く思索を重ね、それまで見落としていたことに気づいたり、新しいことに興味をもって調べ始めたり、忙しいからと棚上げしていたことを、軌道修正する機会も得ることができました。それまで移動に充てていた分の時間が物理的に空いたおかげで、日々充実させられるようになったこともあります。

 

母国だけで生きてきたのではない。

国外からも内からも客観的に見ることができる視点を持っているからだと感じます。

104P 普通って何?

人間は繁殖だけを目的に生きている生き物ではありません。知性がある限り、精神面での健康維持は肉体の健康を保つのと同じくらい重要です。だとすると、理想的家族という既成概念に縛られない生き方や、最初から家族をもたない幸福というものも、もっと当たり前に認められていくべきではないかと感じています。

 

ウクライナ戦争の情勢が思い浮かびました。

どうなっていくのかわかりません。どちらかが白黒つかないといけないのかどうか。第三国が止めるように仲介しないといけないのではないかな。とりあえず理性を持って早く終息してほしい。

140P

病気と戦争で疲れ果てた人間は自分たちの脳で物事を考えられなくなり、自分たちの人生を肯定してくれるような声の大きい人に吸収されてしまうか、明るい光の指す方向や長いものに巻かれてしまうという状況に陥るのが常です。そんな状況が取り返しのつかない戦争のような事態を招いてしまうという顛末に至る可能性は、今も十分にあります。

 

自分の頭で考えれるこんな良識を持てる人になれたら!

225P 常識ではなく良識で生きる

メディアからの情報や、周囲の人の言葉に流されていると、見えるべきものが見えなくなってしまうことが往々にしてあります。世間の倫理や社会の常識は、いったん吸収した上で、それらが本当に必要なことなのか、真意に向けて真摯に掘り下げられた考えなのか、と疑ってみる。そうして自分なりの審美眼を鍛え、自分の頭で考える実践を積んだ先に獲得できるのが、自分にとっての真理、つまり「良識」です。世間体や宗教の教理から生まれたルールに囚われず、人間という生き物としてこの世界で生きる上で何が必要か、それを追求するための知性や考察の修練が自分に相応しい判断力を磨いていくのです。人間に必要なのは、環境によって形成される常識よりも、そうした良識だと私は考えます。

 

ヤマザキさんが14歳でヨーロッパ一人旅したときのことです。

「頼れるのは自分だけ」このままじゃ生き倒れる体験をし、死をどこかで意識するほどの危機に瀕したから気づいたことです。

244P 失敗を恐れるよりレジリエンスを

深く傷つくことも、失敗することも、追い詰められることも、生きていればあって然るべき精神作用であり、すべてを避けることはできません。けれど、そういったことを経なければ得られないエネルギーや精神力があることだけは、断言していいかと思います。予定調和や理想といったものにすがって生きることの危うさも、やはり傷ついたり落ち込んだりすることでしか学習できないものと言えるでしょう。

 

ヤマザキさんが伝えたいことかな。

たちどまったままではいられない。

新たな歩みを始めよう!

272P 

この地球において、現在に至るまで数え切れないくらいの困難が発生してきましたが、こうして我々が今この時代を生きているのは、それらのすべてを乗り越えてきた強靭な遺伝子の生命力があったからだと言えます。

たちどまらなければならなかった時間のなかで溜め込んできたパワーを使って、一体どんなことができるのか。これからの時代、パンデミックを乗り越えた人間をが、持ち前の知性と実行力をどのように稼働させていくのか、興味深く、そして慎重に見ていきたいと思います。

 

 <目次>

はじめに 新しい習慣、新しい私

第1章 歩き始めて見えたこと(パンデミックによって生じた「焦り」、“日本”を考え始めた、私の日本暮らし ほか)

第2章 コロナ禍の移動、コロナ禍の家族(八丈島で昆虫を探す、沖縄、慰霊の旅へ ほか)

第3章 歩きながら人間社会を考える(「戒律」という社会の倫理、オリンピック開催に見た「日本らしさ」 ほか)

第4章 知性と笑いのインナートリップ(ドリフは世界に通じるクールジャパン!?、裏切りと成熟とエンターテインメントと ほか)

第5章 心を強くするために(「常識」ではなく「良識」で生きる、「Keep moving」のすすめ ほか)

おわりに 

 

1967年東京都生まれ。漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。2010年『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。15年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。17年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ章受章。