疑似体験の究極な行先は、一瞬のうちに、立場や老若男女問わず、すぐに演じなければならない俳優だと思う。
もし自分が役を演じるときに、そのときの心がまえや行動を考えることができる俳優業を疑似体験することができたお話だった。
要となる人物は、俳優の南雲草介だ。
すべての章に、表裏の主役として登場する人物。
ドラマや映画の撮影中、舞台の演技中に起こるさまざまな事件やトラブルを鮮やかに解決するベテラン俳優だ。
彼の推理力は鋭い。
物語の細部にだんだんと脳にダメージを与えてくるかのように効いてくる存在だった。
その南雲は、ある秘密を抱えていた。
「ヘッドボイスの行方」。
最後のこの章は、怪我で役者の道を断念して人気脚本家になった人物の視点で描かれていた。
役者の資質とは何だろうかと思った。
例えば南雲という俳優の流儀を知ることだろうか。
演技力などと括られることが多いが、演技力の本質とは何なのか!
よく答えられないのは、実際に俳優として真剣に悩み苦しみながら、その役を演じていないからだと思う。
<目次>
沈黙のスピーチ
一拍遅れのプロローグ
殺陣の向こう側
汚れ役の歌
黒い代役
白紙の応援歌
湿った密室
歪んだ凶弾
一拍早いエピローグ
ヘッドボイスの行方
1969年山形県生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒業。2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞し、05年『陽だまりの偽り』でデビュー。08年「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。13年に刊行された『教場』が「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第1位、「このミステリーがすごい!2014年版」第2位となり、14年の本屋大賞にもノミネートされた。
