【No.321】恋愛寫眞 もうひとつの物語 市川拓司 小学館(2003/06) | 朝活読書愛好家 シモマッキ―の読書感想文的なブログ~Dialogue~

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一冊とのご縁が、人生を照らす光になる。
そんな奇跡を信じて、ページをめくり続けています。

「憧れ」と「恋」とは違うのかな。

一瞬にして落ちる恋もあれば、緩やかに進みすぎて、気づかない恋もあるというのに。

 

タイミングを逃すとだいたい恋は実らないことになります。

終わりの静流が残した写真が重くこころに寄りかかります。

悔しいくらいにこころに突き刺さります。

 

文字で表現してあって実際には見ていないのだけれども、その描写は、まるで目の前で写真を見ているかのように鮮やかに浮かびあがります。

 

読んでいる間、澄んだけがれのないまっさらな空気に包まれているような感覚でした。

それは物語の中に出てくる情景描写が美しかっただけでなく、登場人物たちの純真さゆえだなと。登場人物が皆そろって純粋で思いやりのある素晴らしい人たち。

 

主人公の魅力が客観的にあまり描かれていなかったのはちょっと残念。

どうしてこの人がステキな女の子たちに好かれていたの?

 

最後の結末に涙するというより、彼女の想いが最高潮に昇華されるシーンの美しさに、膨らむ想像によって泣けてきます。

 

愛する人の愛する人も好きでいたい。

切なすぎる愛の形に心が痛みます。

異性を友人として好きだという気持ちと、

特別な愛しい人として好きな気持ちとの境界線はどこにあるのだろうか。

愛するとはどういうことなのだろうか。

 

まるで水彩絵の具で彩られているかのように綺麗で、瑞々しく、透き通っている小説。

 

大事な人に会いたくなるほどステキだけど悲しい、悲しいけど幸せな物語。

 

―――好きな人が好きな人を好きになりたかったの……。

たった一度の恋。

ただ、ただ、切なくなります。

 

 

 

☆1962年、東京都出身。独協大学卒業。97年からインターネット上で小説を発表。2002年『Separation』でデビュー。03年刊行の『いま、会いにゆきます』はミリオン・セラーとなる。

 

 

 

3P

彼女は嘘つきだった。

ぼくは、彼女に嘘をつかれるたびに警戒するのだが、すっかり忘れた頃にまた、同じような嘘に騙されてしまうのだった。

 

 

86P

「何?」

ぼくは彼女の口元に耳を近づけた。

もう一度彼女が言った。

「―好きな人が好きな人を好きになりたかったの……」

その途端、ぼくの胸に鈍い痛みが走った。森の講演で静流の涙を見たときに感じたのと同じような痛みだった。

 

 

 

194P

彼女はぼくの目を見つめたまま、ずっと考えていた。迷いがあり、後悔があり、そして期待があった。友情があり、罪の意識があり、そして恋があった。彼女はレンズの奥の目を何度もしばたたかせた。何度も鼻を啜り、そして最後に決意した。

「今ではなく、明日」

彼女が言った。

「今でなく?」

ええ、とうなずいた。

「初めてのキスよ」

「そうだね」とぼくは言った。

「それなのに、鼻水でしょっぱい味がしたなんて嫌だもん」

彼女の目は真剣だった。そして確かに鼻水が光っていた。