退職後の信吾 8
               清水景允

ディクル工房には、ディクルパネルの他に新しい商品が加わった。これは、ディクル工房のホームヘージを見た東京のご婦人から、ご主人を亡くし、そのご主人の遺影を持ち歩きたい。そこで小さなディクルパネルを作ってくれないかとの依頼であった。
 ディクルパネルの最小の限界は葉書半分の大きさで、それ以上小さくすることが出来ない。遺影を持ち歩くとしたら3センチ×4センチ位の大きさでも大きい位である。
そこで、教員時代に銀塩写真を樹脂の中に封じ込めたことを思い出し、印刷した写真を樹脂の中に封じ込めプレートにし、そのプレートを根付けストラップに取付けたらどうか、と閃いた。
 この製品が出来ると、遺影を携帯電話機等に付けることが出来、何時でもご主人の写真を持ち歩く事ができる。
ご婦人にはディクルパネルでは期待に応えられるものが出来ない、少し時間をいただき新しい方法で作成する旨を伝え待ってもらった。

 インクジェットプリンターで印刷した写真、レザープリンターで印刷した写真を樹脂の中に封入した。しかし、印刷した用紙が薄くて樹脂の中に均一になるように封入することが出来ない。そこで、0.01ミリ程の厚さのプラスチックフイルムにレザープリンターで写真を印刷し、そのフイルムの上に樹脂を載せ固化するのを待ち、やがて固化をするとそれを裏返し、同じ作業を繰り返えす。
つまり、フイルムを樹脂で挟むのである。
一応、成功したかに見えるのだが、衝撃を加えるとフイルムを挟んである部分から剥離してしまうのである。
これでは商品にならない。
 そこで、信吾はレザープリンターのトナー(発色物質)のみを樹脂の中に封入する方法はないかと考えるのである。
ある程度、ディクルパネルの経験から知識はあった。
フイルムの上に、ある薬品(一般家庭で使用されているもの)を100倍に薄め、フイルム上に塗布し、乾かし、そのフイルムを使用し、レザープリンターで印刷し、ストラップとして持ち歩くことのできる大きさにカットし、その上に樹脂を乗せ固化させるのである。固化したら、そのフイルムを剥がすとトナーだけが樹脂の中に入り込んでいるのである。トナーが入り込んだ樹脂の上に、同じ樹脂を乗せ固化するのを待つのである。
出来上がった。
 今度は、衝撃を加えても表と裏の樹脂が剥がれなかった。
出来た製品は透明樹脂の中に奇麗に印刷された写真のトナーだけが入り込んでいる。まるでスライドフイルムが中に入っている様に見える。
それで、数個作り全国の仲間に紹介したところ、好評を得るのであった。
仲間から「何という製品にするのか・・・。」とか「『しずく』に似ているね・・・。」と言ってきた。

開発に使用した写真は、信吾の自画像のイラストと旭川近郊の風景を開発したフイルム上に印刷した。信吾のイラストを楕円形に、風景を35mm×25mmの大きさにそれぞれのフイルムを切り取り、その上に樹脂を乗せ試作品として仲間に見てもらっていたのである。信吾のイラストの入ったものが『しずく』に見えたのだろう・・・。
そこで、ディクルのDを取り、その下に『しずく』を付け「Dのしずく」と命名するのである。
 ディクル工房は「Dのしずく」が新しい商品として登場するのである。
このDのしずくは「透かし絵携帯用写真プレート」として実用新案登録されるのであった。
以後、このDのしずくを専門に取扱う代理店が出来、その会社で販売をするのであった。
もちろん、遺影を依頼された、ご婦人には遅くなったことを詫びるとともに無償で作るのであった。