退職後の信吾 10
               清水景允

 専門的な原子力発電の知識をもっていない信吾ではあるが、この位のことは分かる。
しかし、実際にはもっと恐ろしいことが起きていた。
 原子力発電所内での発電施設が津波によって、電源の喪失が起きてしまったのである。また、外部電源も送電線の鉄塔が地震によって倒れ、外部よりの電力を得ることが出来なくなっている。
 原子力発電所で何故、外部電力、自家発電施設が必要なのかと疑問が生じるのだが、そこは原子力発電の宿命とでもいえる弱いところがある。
 運転中の原子炉の中では常に核分裂が起き熱を発生している。その熱で水を沸騰させ、水蒸気を発生させ、その水蒸気で発電機を回すタービン(風車みたいなもの)を回し、その運動エネルギーを電気エネルギーに変え発電しているのである。その時、タービンを回し終わった水蒸気を水で冷やし、原子炉の中に復水として送り込んで再度水蒸気に変えタービンを回すのである。この様にたえず水を循環させて発電しているのである。
 もし、原子力発電所内で事故が起きた場合、ポンプを回す電力が必要となる。
 また、原子炉内で燃やしきった燃料は原子炉内部から取り出し新しい燃料を入れ替えなければ成らない。それを使用済み核燃料と言うのだが、その燃料は常に放射線を出し崩壊熱と言う熱を出し続けるため、一定時間、水の中に入れて冷やさなければならない。そのためにもポンプを回す電力が必要となるのである。そこで外部電力を必要とするのである。
その電源が全て止まったのである。
幾ら、制御棒(核分裂を止める物質で出来ている棒状のもの)を入っていても、安定冷却になるまで冷やし続けなければならない。それが出来ないのである。
原子炉内では核分裂の暴走が始まるのである。
 この福島の原発事故で信吾は初めて知るのであるが、日本全国に54基も
の原子力発電所が作られていたのである。