寺田澄子との別れ、そして結婚 8
                     清水景允
 ある時、信吾は気がついた。
『そうか、現像液の温度が、しっかり管理された現像槽に、現像液が下から中に入る現像タンクを作れば良いのだ。そのタンクの中に暗室で焼き付けた印画紙を入れ、明室にセットしてある、その現像槽にタンクごと沈めてしまう。そうすれば、現像液が皮膚に付かなくて済むし、真っ暗な暗室に30分も籠る必要がない。
 どの様に光が入らず、現像液を現像タンクの中に入れるか。
液体は通るが光は通らない遮光板を現像タンクの下部に取付れば良い。しかも、その遮光板は、可能な限り薄くしなければならない。厚さは五ミリに押さえたい。』
 信吾は考えるのである。
『そうだ、光を通さない厚さ2ミリのプラスチック板に、直径2ミリの大きさの穴を規則正しく無数にあけ、もう一枚の2ミリのプラスチックの板に、同様に穴を開け、その穴を開けた二枚のプラスチックを少しずらし0.5ミリの隙間で重ねれば、現像液は液体だから0.5ミリの隙間を流れ、現像液がタンクの中を出入りする。光は直進しかしないから遮光され、タンクの中に光は入らない。』
 理論的に可能だと言うことが分かった。
 信吾は、直ちに設計に取りかかった。
直径2ミリの穴を開けると、穴と穴との間隔は6ミリがベストであることが計算で分かった。
ひとつの穴を中心から6ミリずらして直径2ミリの穴をあけるのである。
問題は、如何に正確に等間隔で穴をあけるかである。
理科準備室には卓上のボール盤がある。それで穴を開けるのである。少なくても光を通さない一枚のプラスチック板に250個の穴をあけなければならない。二枚だから500個の穴を開けるのである。
授業が終わった、放課後にボール盤に向かうのであった。
穴と穴との間隔の精度は0.1ミリ違えば光が中に入る。

 一方、現像槽の設計に取りかかった。
それまで、一枚のカラー写真を現像するのに、現像温度20℃で30分かかっていたが、文献によると30℃5分で現像できる現像液があることを発見した。しかも、現像工程が現像と水洗、漂白定着そして最後に水洗いの4工程で済むのである。従って、現像槽と漂白定着槽との間に水洗槽を付けて3個並列に処理槽を作れば良い。
それぞれの処理槽は2000ミリリットルの処理液が入る様に設計した。
 温度は、0.5℃の温度管理を出来る電子回路を作り、その回路を現像槽の下部に取付けた熱帯魚の水槽に使用するヒーターで自動的に温度調節できる様に組み込んだ。
 現像液が空気に触れると酸化し劣化が早い。それを防ぐため、現像液の表面積を可能な限り小さく設計した。その中に印画紙の入った現像タンクを現像槽に中に沈めるのである。
 現像タンクの遮光板ができた。
その遮光板は、厚さが4.5ミリで、現像タンクを水洗するため二枚に分解できる様にし、スライド式で現像タンクの下部に取付けた。

 装置はできた。
初めての現像である。
暗室でフイルター調節をし、A4一枚の印画紙に焼き付けた。
その印画紙を、現像タンクに入れ明室に出て来た。
現像槽の方は、しっかりと温度管理がされている。30℃である。
現像タンクを、その現像槽に沈めた。
はじめ30秒位撹拌をしなければならない。
現像タンクが二重構造になっていて、印画紙を入っている部分が、現像タンクの中で上下できる構造になっているから、それを上下させ撹拌した。
現像、水洗、漂白定着、水洗と進み、現像タンクの蓋を開けるときが来た。
蓋を開け、印画紙を取り出した。
『写っている・・・。写っている・・・。写っている・・・。』
信吾は一人飛び上がりたい気持ちを抑え、物理の先生に報告をした。
先生は「ほう・・・。現像が出来ましたか・・・。」
少し、時間を置いて「その技術を特許出願したら良いですね・・・。」と言うのである。
『特許出願・・・。』
信吾にとって思っても居なかった言葉であった。
物理の先生は、「特許出願には特許法と言うのがあって、その特許法に適合していれば、誰でも特許登録が出来る。つまり、特許を得ることが出来ます。」と言うのであった。
それからと言うもの、信吾は特許法の文献を調べるのであった。