助手時代 七
清水景允
信吾の高校生時代の物理の成績はクラスの中で良い方で、物理の先生から実験の助手をさせてもらっていた。
そんな時、中学校では目にしたことのない実験器具が目に入った。
直径15センチ位のガラスの球体の一方に、同じガラスで出来ている太い試験管の様なガラス管が着いている。もう一方にも同じ様にガラス管が着いて、その中に金属が入っている。不思議な形の実験器具であった。
信吾はその実験器具を物理の若い先生に「この装置は何ですか・・・。」と質問したところ、その先生は「エックス線管だよ・・・。」と教えてくれた。
『エックス線』
とっさに、信吾は『モノの内部を見ることのできる装置がここにある。さすが高校だ・・・』と感激しその装置を見入った記憶がある。
そのエックス線管を、今は自由に操作できるのである。
信吾にはもう一つ、どうしても研究しなければならないものがあった。
それは、原子力工学についてである。
原子力工学の受験を失敗し、勝ち気な信吾は母校に残ることが決まった時から、原子力についての研究に心を動かすのであった。
『ようし・・・。独学で原子力工学を勉強しよう。』
独学で勉強することは工業化学の勉強で経験している。
『何年かかるかわからないが原子力工学のことについて一任者になってやる。』と、意気込み、原子力工学の書籍を探し求め、仕事以外の少しの時間を見つけ、その文献を開くのであった。しかし、いくら紐解いても理解することが出来ないところがある。信吾は『もっと基礎的な知識が必要だ・・・。それには物理・化学の知識を工学系大学の教養レベルまで上げる必要がある。』と考えるのである。
そこで、北海道大学理学部を卒業し、本校で先生をしている、若い物理の先生に相談をし、同じ理科室の四人の先生と、一週間に一回、昼休みにゼミナールをお願いすることにした。
信吾の担当は現代物理学である。その中で、アインシュタインの相対性原理について発表することにした。
少しでも原子力エネルギーの理論を知りたかった。
それには、現代物理学の中で量子力学の基礎的な知識が必要であった。
信吾は登下校の電車の中など少しの時間があれば現代物理学の文献を開くのである。
後に気がつくのであるが、通勤する電車の中に若い女性が乗車して居たが、信吾は現代物理学の著書から目を離さなかった。
信吾の発表の日が来た。
昼休み30分間、行なうのである。
この30分間の発表の為に1ヵ月の時間を要し準備をして来た。
発表はアルベルト アインシュタインの相対性原理に伴うエネルギーに関するものであった。
アインシュタインは、エネルギーは物質の質量と光の速度の二乗の積に比例すると言う。つまり、E=mc^2と言う方程式である。
信吾は物質の質量がエネルギーに変わることが不思議でならない。しかも、具体的に1グラム(一円硬貨一枚)の質量が全部エネルギーに変わると八万世帯の家庭が1ヶ月間、使用することが出来る電力が得られる計算になる。そこのところを、計算式をたて先生方に示した。
先生の中から、どうしてアインシュタインの方程式が成立するのか。と言う質問が出た。これには30分以内で説明することが出来ず、後日のゼミナールまでの宿題にした。
アインシュタインは質量と光速の二乗の積がエネルギーとの比例関係にあることを発見するのであるが、その基礎となる知識として、ローレンツ変換という、空間のゆがみの中を光が進んで来る現象を元にしていた。
信吾は、ローレンツ変換について勉強するのであった。
現代物理学を研究していく中で、日常の常識では考えられない現象が起きている。空間のゆがみもそうであるが、もっと信吾の心に影響を与えたのが、四次元の世界であった。
『四次元の世界、それは人間が生活している三次元の世界(広さと高さの世界)に時間軸を加えた世界だ。この世界では三次元の世界に生きている生命体では、全く想像することの出来ない。例えば、四次元では時間軸をコントロール出来るのであるから、過去、現在、未来を自由に行き来することが出来ることになる・・・。アインシュタインの質量とエネルギーの方程式を理解するには、そこまで深く掘り下げなければならないのだ。』
信吾はあらためて、三次元世界では原子のエネルギーを利用することの難しさを痛感するのであると同時に『今、この原子のエネルギーを技術によって利用しようとしているが、技術者達は、この現代物理学を何処まで理解しているのだろう・・・。』と言う疑問が生じてきた。
『もし、表面だけの知識で原子力エネルギーを利用しようとするなら、小学生の時、理科実験で経験した時の様に、あの恐ろしいことが起きるのでないだろうか・・・。』
と、小学生の時の理科実験クラブで、キップの装置のガス取り出し口にマッチの火を近づけた先生のことを思いだすのであった。
当時、小学生であった信吾は、先生のやることだから・・・。と安心してみていたが、それと同じ様に、原子力の平和利用を旗印に叫ぶ人々は、小学校の時の先生と同じではないだろうか。そして、信吾が安心して視ていた時の様に、危険であることを知らずに見ているのが一般の人達でないだろうか・・・。と考えるのであった。
『もっと、現代物理学について勉強しなければ・・・。』信吾は決心するのである。
清水景允
信吾の高校生時代の物理の成績はクラスの中で良い方で、物理の先生から実験の助手をさせてもらっていた。
そんな時、中学校では目にしたことのない実験器具が目に入った。
直径15センチ位のガラスの球体の一方に、同じガラスで出来ている太い試験管の様なガラス管が着いている。もう一方にも同じ様にガラス管が着いて、その中に金属が入っている。不思議な形の実験器具であった。
信吾はその実験器具を物理の若い先生に「この装置は何ですか・・・。」と質問したところ、その先生は「エックス線管だよ・・・。」と教えてくれた。
『エックス線』
とっさに、信吾は『モノの内部を見ることのできる装置がここにある。さすが高校だ・・・』と感激しその装置を見入った記憶がある。
そのエックス線管を、今は自由に操作できるのである。
信吾にはもう一つ、どうしても研究しなければならないものがあった。
それは、原子力工学についてである。
原子力工学の受験を失敗し、勝ち気な信吾は母校に残ることが決まった時から、原子力についての研究に心を動かすのであった。
『ようし・・・。独学で原子力工学を勉強しよう。』
独学で勉強することは工業化学の勉強で経験している。
『何年かかるかわからないが原子力工学のことについて一任者になってやる。』と、意気込み、原子力工学の書籍を探し求め、仕事以外の少しの時間を見つけ、その文献を開くのであった。しかし、いくら紐解いても理解することが出来ないところがある。信吾は『もっと基礎的な知識が必要だ・・・。それには物理・化学の知識を工学系大学の教養レベルまで上げる必要がある。』と考えるのである。
そこで、北海道大学理学部を卒業し、本校で先生をしている、若い物理の先生に相談をし、同じ理科室の四人の先生と、一週間に一回、昼休みにゼミナールをお願いすることにした。
信吾の担当は現代物理学である。その中で、アインシュタインの相対性原理について発表することにした。
少しでも原子力エネルギーの理論を知りたかった。
それには、現代物理学の中で量子力学の基礎的な知識が必要であった。
信吾は登下校の電車の中など少しの時間があれば現代物理学の文献を開くのである。
後に気がつくのであるが、通勤する電車の中に若い女性が乗車して居たが、信吾は現代物理学の著書から目を離さなかった。
信吾の発表の日が来た。
昼休み30分間、行なうのである。
この30分間の発表の為に1ヵ月の時間を要し準備をして来た。
発表はアルベルト アインシュタインの相対性原理に伴うエネルギーに関するものであった。
アインシュタインは、エネルギーは物質の質量と光の速度の二乗の積に比例すると言う。つまり、E=mc^2と言う方程式である。
信吾は物質の質量がエネルギーに変わることが不思議でならない。しかも、具体的に1グラム(一円硬貨一枚)の質量が全部エネルギーに変わると八万世帯の家庭が1ヶ月間、使用することが出来る電力が得られる計算になる。そこのところを、計算式をたて先生方に示した。
先生の中から、どうしてアインシュタインの方程式が成立するのか。と言う質問が出た。これには30分以内で説明することが出来ず、後日のゼミナールまでの宿題にした。
アインシュタインは質量と光速の二乗の積がエネルギーとの比例関係にあることを発見するのであるが、その基礎となる知識として、ローレンツ変換という、空間のゆがみの中を光が進んで来る現象を元にしていた。
信吾は、ローレンツ変換について勉強するのであった。
現代物理学を研究していく中で、日常の常識では考えられない現象が起きている。空間のゆがみもそうであるが、もっと信吾の心に影響を与えたのが、四次元の世界であった。
『四次元の世界、それは人間が生活している三次元の世界(広さと高さの世界)に時間軸を加えた世界だ。この世界では三次元の世界に生きている生命体では、全く想像することの出来ない。例えば、四次元では時間軸をコントロール出来るのであるから、過去、現在、未来を自由に行き来することが出来ることになる・・・。アインシュタインの質量とエネルギーの方程式を理解するには、そこまで深く掘り下げなければならないのだ。』
信吾はあらためて、三次元世界では原子のエネルギーを利用することの難しさを痛感するのであると同時に『今、この原子のエネルギーを技術によって利用しようとしているが、技術者達は、この現代物理学を何処まで理解しているのだろう・・・。』と言う疑問が生じてきた。
『もし、表面だけの知識で原子力エネルギーを利用しようとするなら、小学生の時、理科実験で経験した時の様に、あの恐ろしいことが起きるのでないだろうか・・・。』
と、小学生の時の理科実験クラブで、キップの装置のガス取り出し口にマッチの火を近づけた先生のことを思いだすのであった。
当時、小学生であった信吾は、先生のやることだから・・・。と安心してみていたが、それと同じ様に、原子力の平和利用を旗印に叫ぶ人々は、小学校の時の先生と同じではないだろうか。そして、信吾が安心して視ていた時の様に、危険であることを知らずに見ているのが一般の人達でないだろうか・・・。と考えるのであった。
『もっと、現代物理学について勉強しなければ・・・。』信吾は決心するのである。