今日、帰りの電車で美しい人を見た。
年は、30代半ばといったところか。
なかなかの美人。
指輪をつけていないところを見ると、独身だろうか。
派手ではないが、羽振りの良さそうな洋服を着ていた。

僕は、その人の隣にいた。
本を読んでいた。
前には座席。
おじいちゃんが座わっている。

電車が混んでくる。
金曜の遅い時間は、いつもこうなのだ。
自然、その女の人とも密着してしまう。
女の人を、よしこと名づけよう。

突如、後ろにいた男がふらついて、もたれかかってくる。
座席前のつり革に捕まる事のできる人は、限られている。
電車を輪切りにすると、座っている人、つり革に捕まっている人、真ん中で困っている人、反対側のつり革に捕まっている人、座っている人の5段階に分けられるはずだ。
僕にもたれかかってきた、若い男は真ん中捕まるところが無いのだ。

彼は泥酔のようで、ゆれていないのにゆれている。
少し、隣のよしこによりかかった。
よしこは迷惑そう。
チラチラ振り返る。
電車がゆれる。
ヨシコにカラダをあずける、ケイタ。
少し嫉妬する俺。

駅で電車がとまる。
前のおじいちゃんが、
「俺はここでおりるから」
とヨシコに席を譲る。

おじいちゃんもケイタの嫌がらせに目をつぶってられなかったのだ。

エライぞ!ジジイ!
と俺は思う。

ヨシコの幸せを考えると、ケイタとは分かれたほうが良い。
ケイタの自分勝手な行動に振り回される必要はないのだ。
ヨシコは、一人でもやっていける強い女性。
しかし、ケイタは酒をあおっては家族をかえりみずフラフラと電車に揺られているような男なのだ。

ヨシコよ、コレを縁にケイタと分かれろ。
そして新しい、終電人生を迎えるがいい。
周囲の男は誰もそう思ったはず。

しかし、ヨシコの次の行動は皆の度肝を抜いた。
ちなみにおじいちゃんは僕の目の前で、ヨシコからみたら斜め向かい。
おじいちゃんがヨシコを指名した為に僕を含めた周囲の人間は、ただただ、ヨシコが座ることをいのるのみであった。

はたして、ヨシコは座らなかった。
なんと驚くべき事に、ケイタに席を勧めたのだ。
譲ったのではない。
肩をたたいて、

「こちらに座ったら」

と勧めたのだ。
人間のクズであるケイタは、酔いに負けてヨシコの顔もみず座った。
ただ、横柄に手で挨拶するのみだ。

それでもヨシコは笑顔だった。
びっくりしたおじいちゃんに、
「えらいねー」
といわれた事も理由だろうが、いい事をしたという充実感がみなぎっていた。

僕は、心のそこから拍手を送った。
ただ、心の外からその音が漏れることは無かった。
しかし、素晴らしい。
ヨシコは、出来た人間だ。
ムカついてしかるべき人間に、席を譲るのだ。
ムカついていると思いきや、心配していたのだ。
僕に同じ行動が出来るだろうか。

次の駅、僕の目的の駅でもあるので降りる。
ヨシコもつづいて降りる。
あぁ、なるほど、一駅だったから座る気はなかったのだ。
なるほど、なるほど。
しかし、イタズラをされた男に肩をたたいて席をゆずるんなんてすごいなー。

などと感心しながら、エスカレーターを降りようとすると、前を強引に割り込む女が!
テメェ、コノヤロー!!
と思って、みるとそれはヨシコであった。
彼女の本性はいったい。。。