私は階段に片足を乗せた格好のまま、硬直した。息をすることも忘れて見つめ合う。今までにこんな大きな生き物に出会ったことはない。

畑は階段に沿って斜面のようになっているため、左前方にいるその生き物は、私を見下ろす形で行く手を塞いでいた。

相手は動かない。私も動けない。よく見ると、お尻から長いしっぽが生えている。しっぽは細長く、くるっと上を向いている。長いしっぽと背中で逆立つたてがみ、今までに見たことがないほど大きな体躯。

馬だ、と思った。階段の下から見上げた姿は馬のように大きく見えたし、私の頭の中の数少ない生き物辞典の中では、残念なことにそれしか結びつかなかった。一度、馬だと認識してしまえばもう馬にしか見えない。したがって、私は咄嗟にその生き物を肥満気味の馬だと結論付けた。記憶している馬よりだいぶ横に太いという違和感は、肥満体の馬だということで片づけられた。

冷静に考えれば、現代の日本に野生の馬がいるのかという疑問が浮かぶと思う。

しかし、残業で疲れ切った頭で未知との遭遇をした私の思考能力は、その程度の答えしか導き出せない残念なものだった。