「――――太刀がない。そうだ、帝の屋敷に置いてきたままじゃないか!」
隆久は自分を呪った。
彼の持つ刀は特別製で、自らの背丈程に長い。取り回しも難しく、人一倍扱いに慣れるため鍛錬を積んだ。物心がついた頃には既に持っていた、付き合いの長い刀ということもあって、まるで半身を失ったかの様な喪失感を覚えた。
「しかし、取りに戻るのは危険です。足がつく可能性もありますし、夜明けも近い。そんな猶予があるか疑わしいです」
「恐らく間に合わないだろうな。この家に何か武器はないのか?」
「一つだけ、あるには、あるのですが……」
そういうと、命は表情を曇らせる。
「無理強いはしないさ」
「すみません」
隆久は内心、ため息をついた。思い当たる手段が狭まって来たからだ。
武器を持たずに向かうか、手近な所で確保するか、太刀を取りに戻るか。
一つ目の選択肢でも、可能と言えば可能だ。昼間に鉢合わせた山賊の練度を見る限り、ある程度は体術で捌けそうだった。ただ、ある程度までが限度でもある。物量戦となれば分が悪い。
二つ目の選択肢は、時間的都合であまり期待は出来ない。三つ目も、現状行うには危険だ。
そこまで考えたところで、隆久はふと吹っ切れたように思った。
(なんだ、結局なにをしても危険じゃないか)
ならば――――。隆久は私情を多分に含んだその決断に、思わず苦笑した。
「太刀を取りに戻る」
隆久の言葉に、俯いていた命が驚きの声をあげる。
「!? そんな、ご自身でも危険だとお気付きのはず!」
「承知の上。どの道、あれは俺に必要なものなんだ」
「っ……そう、ですか」
言葉とは裏腹に、どうにも彼女は納得しきれていないようだった。
「問題ない、すぐに戻る。ただ、山賊退治は大事を取って明日の明朝に実行しようと思う。悪いが、一日泊めてはもらえないか?」
「あ、はい。それに関しては問題ありません」
「ありがとう」
それに関しては、という含みのある言い方を、隆久はわざと無視した。
「では、そろそろ行ってくる。あまり遅くなって、太刀が失くなっていても困るからな」
「はい、分かりました。帰りをお待ちしております」
命が深くお辞儀したのを見てから、隆久は部屋を後にした。
