近頃、そうでもなくなったが、ゴルフキャスターの戸張捷は弁が立ち、昔、ゴルフ中継で実況アナと言葉がかぶり煩さかった。今回も彼は半分はこれまでの日本人選手のメジャー挑戦の例と同じく、様々な理由で善戦はするけれども、最後は負けると決めてかかっていたのではないかと思われる。3番の4パットの時も視聴者の予想しない危険性を示唆し、結果的に自分の予測が正しかったことを証明した。

 

 

 一体、何の話? ごめんなさい、渋野日向子のLPGAメジャー42年ぶり優勝のお話しです。

 

渋野日向子 出典:my caddie

 

 

 近年、拙ブログにもちょくちょく登場する怪しげな真言宗住職と、リハビリを兼ねて平坦なコースのハーフだけを回るようにしているが、先日、4番ウッドでティーショットを打つと、住職のドライバーより飛んでいて、隣から打ってきたボールではないかとか、メーカーが違うのではないかとか、様々なクレームと異議を遣り過ごし、パー5のホールをスリーオン4パットのダボで上がった。

 

 

 ご興味はないだろうが、一応、グリーン上の様子を解説すると、10~12mの逆目登りのほぼ真っ直ぐのバーディーパットを、ノー感でグリーンの外へ外し、グリーン縁の広めのファーストカットから下りの5mをパターで2mオーバー、進行の関係でOKをもらったが敢えて打ち、チョロして1m残し、最後は5パットの声を聞き流して、見事に真ん中から沈めた。つまり、どうでもよいおじさんの4パットの一例。

 

 

 ここで冒頭の話に繋がるのだが、今大会の渋野は、前半9ホールは静かに耐えて、後半、人が変わったようにバーディーを量産する傾向があった。思い切り振ってティーショットが曲がらない。とても期待が持てる選手だった。

 

 

 正直に言おう、初日、上位に日本人の名前が出た時、どんな娘(失礼)だったかなと思った。アマの安田選手も知っていたのに、どんなに記憶をたぐっても渋野の顔もプレーも引き出せなかった。

 

 

 3日目はほぼ放送した全ホールを観たが、下はぐんぐん伸ばしてくるのに対し、ハーフの間は渋野は伸びることなく、このままずるずる下がっていくのがパターンだけれど、10番から人が変わったようにバーディーを記録していった。終われば、2位と2打差のトップである。

 

 

 この時、下に付けている世界ランク1、2位の韓国勢の存在が気になった。韓国人女性プロゴルファーは、群を抜いて強い。リオとはメンバーが様変わりしていたが、1位はコ・ジンヨン、2位パク・ソンヒョンだった。どちらもクールなプレイスタイルで、明日は難敵になるに違いないと確信した。

 

 

 最終日、ちょっと観るのが遅れ、1番から観られなかった。寝てしまうことがあるので、録画しながら観戦した。問題の3番ホール、例によって自分がメジャーの戦いに精通しているとばかり、戸張の適確な解説が続く。おじさんは3パット目を外すという事は考えていなかった。その時、戸張がこれを外すことがあれば大変だと当たり前の事を言い、言葉通り渋野は外した。

 

 

 戸張が観ていたのは日本的観戦方法であった。そしてそれは42年間正しかった。だが、樋口久子はちょっと違っていた。バーディーチャンスに付かなくても、長い方がしっかり打てて入りやすいと思うと言った。おそらく長年勝負師として生きてきて、今大会の渋野に何かを感じたのだろう。

 

 

 そうは言うものの、伸びない渋野に追い上げる選手はぐんぐん延ばしてくる。戸張は何かが足りなくてこれまでメジャーの優勝がないと言っていたアメリカのサラスが、正確なショットとパットで見る間にバーディーを積み重ね、終いには〝ゾーン〟に入っているとまで戸張に言わしめ、さらに何のプレーッシャーもなくここまで来たのは、トップの最終組から2組前をプレーできたからだと分析した。

 

 

 確かにサラスの18番ホールの2m弱のバーディーパットは、おじさんも入ると思っていた。だが樋口は分かりませんよ、今までプレッシャーなくパットできていても、入れると優勝というパットはそんなに平静に打てるかなと言う訳である。これまでのサラスの勢いならこれが入り-18、渋野が-17、渋野は18番でバーディー必須となり、善戦空しく1打及ばず惜しくも2位というのが、日本人挑戦者のお決まりのパターンで、今回もその可能性は大だった。

 

 

 だがサラスのパットがホールの縁をかすめ外れた。樋口の第一声は「ほら~~」だった。いつも冷静に日本人びいきを押さえ、公正に解説している樋口だが、思わず本音が漏れ逆におじさんなどはより好きになった。

 

 

 渋野が18番のティーインググランドに上がった時、おじさんはパーを取れ、ティーショットを曲げるな、ラフへ行くなと祈ったが、祈りの言葉が終わらない内に渋野はさっさと打ち終え、狭いフェアウェイに転がった。2打目も古いタイプのおじさんは、2パットで上がれる距離に乗れと祈った。要するにプレーオフに持ち込んでくれということである。

 

 

 メジャー大会はコースが難しく設定してあり、同じスコアなら先にホールを終えた選手が後からプレイする選手より有利とされている。渋野が区グリーンに上がった時、古い人間のおじさんは、下りの距離を合わせ、ここはパーで通過し、プレーオフにもつれ込めと考えていた。

 

 

 だが渋野はちょっと時間を掛けたくらいで、さっさとバーディーパットを打ち、真ん中から決め両手を挙げていた。おじさんも同じように両手を突き出し「オオー」と叫んでいた。後で聞くと住職も両手を挙げて叫び泣いていたという。いや泣いていたことは奥さんから聞いた。おじさんは泣きはしない目が潤んだだけである。

 

 

 樋口久子がメジャーを穫った時、おじさんはまだゴルフを始めていなかった。やがて知識が増えるにつれ、毎回、日本人選手の優勝を夢見て夜中の放送を見るが、いつも少し及ばずタイトルに手が届かなかった。女子も岡本綾子がアメリカに拠点を移し、その内と思われたが、紙一重で及ばなかった。

 

 

 おじさんは戸張の観戦方法と解説を揶揄したように書いたけれども、みな戸張の観戦方法であった事を告白する。メジャー獲得には、これを打ち破る〝考えなし〟のプレイが必要だったのである。誰がバーディーで優勝を決めると思っていただろうか。多分、思っていたのは本人とキャディーと樋口久子だけだったろう。

 

 

 渋野はおじさん達が頭の中で作り上げていた壁、呪縛を一瞬にして払ってくれた、そういう大会だった。今後、日本人メジャーが何人も誕生すると預言しておく。

 

 

 by 考葦(-.-)y-~~~