ここ1年ほど、主に竹書房文庫の実話怪談百数十冊を読み、気付いたことがある。


 それは、ある怪を起こす幽霊なり、物の怪は、すべて何かの災難に遭い、それがきっかけで出没するようになっているということである。


 分かり切ったことを、大発見のように言うが、生き霊という特殊なケース以外、不幸な死が背景にある。


 つまりそれは、事故や災害の被害者であったり、自殺という自らの意思で死を選択した者であった事を推測させるが、加害者すなわち殺人者側の幽霊を書いたものは、おじさんが見る限りただの一編もない。人を殺した人間が死んでから幽霊となって出てくるというケースは、おじさんが読んだ百余冊の中で皆無だということだ。


 もし、確率論的に人間の一定割合が死後、幽霊となると仮定すると、殺されて幽霊になる割合と、殺してそうなる割合は同じ筈であるが、殺されたり事故に巻き込まれた側が不幸な運命を辿る一方、何故か殺した方が迷わず速やかに一つ上の霊界に行けるという不合理な結果になる。


 それはそうだろう。殺される側に立てば、何の準備もないまま、突然、この世との縁を絶ち切られ、気に懸かる子供や、夫、あるいは妻を遺して行くことに未練をもつ霊は多いはずである。だから、この世に止まり何とかメッセージを伝えようとするのであろう。


 新しい読者のために、ここでざっとおじさんの考えを説明をしておかなければならない。おおむね以下のような認識でいる。

  ① 人は肉体とは別に魂という本体を有している。
  ② 肉体が死ぬと魂は別の世界へ移る。
  ③ 大多数は自然に移行するが、例外的にこの世(現界)に止ま
    る魂がある。
  ④ 人の体験する怪の多くは、③の魂との遭遇である。
  ⑤ ③の世界は幽界と呼ばれることもあり、その上が霊界とよば
    れ、霊界には階層があるとされている。
  ⑥ 人は時期が来れば霊界から生まれ、霊界に戻ることを繰り返
    す(輪廻転生)。
  ⑦ 悟りの境地に達すると輪廻転生から脱し、生まれ変わることは
    ない。
以下は補足である。
   a 現界と幽界は重なって存在し、通常、人は幽界は見えない
    が、霊からは現界が見えている。
   b 時に幽界が視える人があり、霊感が強い人と呼ばれている。
   c 霊はそれほど自由に現界(幽界)を行き来できないようである。
    というより、むしろ、場所(土地又は建物)に縛られているよう
    に見受けられる。あとは人に憑いて移動する。
   d 妖怪というものは上記の例外として認識している。
   e 妖怪は人間由来のものと、その他由来のものがある。
 

 さて、話しを戻すと、殺人者の方が速やかに霊界に行くことができる、となれば、この世の常識は少し変わってくるのではないか。殺すより殺される方がいいと大多数の人間は思っている。


 だが、殺された人の何%あるいは0.何%かは、この世への未練、犯人への復讐心、不特定多数への恨み、遺族への想い等々により、成仏できない魂=不成仏霊となるのに対し、殺人者の方は不成仏霊になる可能性がほとんど無い、ということになれば、そんな事、納得できないという人が多いのではないだろうか。


 まったく殺された上に、死んでからもこの世を彷徨うことになるなんて、不合理の極みである。理不尽極まりない。

続く