昨晩、K市で一杯やって、乗り換えのH市に着いたときには9時を少し過ぎていた。


 ローカル線の次の電車は急げば間に合う時間だが、無理をするのは止めて、その次の便に乗ることにし、まだ20分以上あるその時間に、近くで食事をすることにした。


 Y屋で食事をした後、ホームに上ったら、もう電車は着いていて、パラパラ乗客の姿があった。


 左右に車体に背中を預けるタイプの椅子が設置されている車両で、全体に多く乗客を収容できるのだと推測される。


 ガラガラでスタートするのかと思いきや、一人、また一人と椅子が埋まり、5分もすると立っている人が出始めた。


 発車間近になって旅行帰りと見受けられるオバ様4人組が乗り込んできて、おじさんの対面の椅子の前におじさんに背を向ける形で、一列にお立ちになった。


 高齢だが元気そうな人たちで、よくあるオバ様グループ特有の威圧感も圧迫感もなく、装いもケバケバしくなく、かといってセレブの感じもまとわず、自然体で穏やかにお立ちになっていた。


 向いの席での事であるし、おじさんの前にも人が立っており、おじさんは、その隙間からオバ様のお土産らしい紙袋の文字を読むのに手こずっていた。


 そんな折り、ちょうど真向かいのおじさんより先に座っていたOL風の若い女性がツっと立っておじさんの横の出入口の前に移動してきた。


 言葉は無かったが、席を譲ったのは誰が見ても明らかで、前に立っていたオバ様の一人が礼を言いつつお座りになった、っと思ったら、その横のOL風の若い女性も席を譲り、側にいるのが照れくさかったのだろう、離れた場所へ移動していった。


 そして2人目のオバ様もお座りになったその時、それほど若くない男性と次に座っていた学生風の女子が一度に立ち、残りのオバ様お二人も目出度く座ることが出来た。


 あまり電車の乗ることがないせいで、見かけたことがなかっただけかも知れないが、オバ様方は座らせろという空気を発散することなく、立って当然という風情で構え、譲る方も押しつけがましくなく、気を遣わせない態度でさりげなく譲る――時間にして1分程度、いい物を見て得した気分でいたところ、オバ様方が気を遣って互いにギューとお詰めになった関係で、細い人一人分のスペースが出来てしまった。そこへ駆け込んできた大学生風の女子が微笑みながら座ってしまった。


 流れとすれば、ぽっかり座れるスペースが目の前に出来たのだから、座って当然である。彼女にツキがあっただけだ。おじさんの心の中に小さなさざ波が生じたが、誰一人悪い人は居ないのですぐに収まった。



 この国は大丈夫だ。オバ様達も素敵だったし、譲った4人も素晴らしかった。やはり、この日本国民は世界最高の民族なんだと改めて思った。