池袋にはたくさん想い出がある。そのころおじさんは、今でいうおネエ系の人に好かれるということが分かっていた。


 借りていた汚いアパートへは行く道が3つあり、2つはどちらを通っても、たいして距離は変わらないが、1つはぐるっと遠回りすることになる、といった地理的なぐあいになっていた。


 その距離が近い2本の道に、それぞれおネエの店があり、どちらを通っても、夜になると、いつも客引きのおネエが立っていて、毎日、お金がないといっては、逃げるように帰っていた。


 ある日、いつものように店の前を通ろうとしていると、おネエの姿がない。やれやれ、今日はゆっくりと通れると思った矢先、普段、一人か二人なのに、がやがやと7~8人が階段を下りてきて(そこは2階がお店になっていた)、
「ほら、言ったでしょう」
「本当だったんだ」とか、
「ママ、いいでしょう」とか、
何やら、やや高めの男の声が交差している。


 結局、おじさんの言い訳が、お金がないの一点張りだったから、お金が無くても店で飲ませようという事になったらしい。


 で、結局、ほとんど拉致に近い格好で、店に連れ込まれたのだが、最初は遠慮がちに飲んでいたものの、客を楽しませることにかけては、全員が抜群の腕をもっていて、途中で記憶が飛ぶぐらいへべれけに酔っていた。


 ママにチークダンスに引き出され、キスをされたような気がするが、翌日、帰った過程も覚えていないほどだった。


 とにかく、相当な出費を店にさせた筈で、翌日から、その通りはタブーとなり、必然的に別の近い道を通ることになっていった。


 例によって、オカマの店の呼び込みを、お金がないの一つ覚えで交わしていたところ、
「お金が要らなかったら飲む?」
と、意表をついてきた。


 いや、何々がどうとか、ちょっと都合がとか、モゴモゴとと断っていると、徐々に口調が荒くなってきた。


 どうやら、応援を呼ぶために聞こえるように言っていると察知したおじさんは、応援が来る前に逃れようと、苦し紛れに、
「嫁が家で待ってるから」
と答えてしまった。


 もちろん嘘八百だが、そんなことは敵もお見通しで、私と飲むのが嫌なのね、と睨んできたので、ちょっと急ぐからと、這々の体で逃げ出した。後ろから今度通ったら承知しねぇぞ、と男丸出しの声が追いかけてきた。


 仕方がないので、その後は、大回りの道を引っ越すまで通るはめになった、というお話。


 この話には後日談があるのだが、それはまたいずれ……。
 オカマにナンパされ、泊まりに行った話も笑えるが、これもいずれ……


 それでは