1955年の録音は、グールド自身が書いている。これは、LPレコードにはついていなかったが、SACD・CDのbox
には、付属している。

 グールドの解説を要約すると、
「主題(アリア)の構成に特徴がある。第

3変奏から3曲ごとに2回のカノン、3回のカノン、と

階差数列でアリアを中心とした変奏がグルグルと軌道(orbit)を回っている。
  アリアは30の異なる変奏でそれぞれが低域のコード進行で異なる世界

を構成しつつ(例えば、第18変奏では低域の変化があり、第25変奏では

ト短調の悲しさが入っているなどの変化がある)、

一つの世界の体系を保っている。始まりも終わりもない音楽で、

主題は放射状((radial)で循環的(circumferential)であり、

風の翼の上に軽く休むような音楽である」(著者要約)

一言でいえば「宇宙的な世界の中に、それぞれの変化を含む体系がある」

(著者の受けた感想)なのだ。

1955年版の録音は、38分。
1981年版は、51分。

世界の衝撃を与えたのは55年版だが、81年の倍のテンポで、

さくさくと演奏されている。

これ、普通は1時間を超えるものだ。
たとえば、シフの録音は、1982年版 72分、2001年版79分.
そう、この作品、1時間では収まらない長さなのだ。

 注(79分というのは、CDの規格(レッドブック)ギリギリで、

    トラックピッチを短くするとギリギリ収録できる。

    短いピッチに同じ情報を詰めるので再生できないCDプレーヤーも多々ある)
 

38分という短さの、ひとつの理由は、グールドはリピートを行っていないからだ。
スコアそのものは同じだと思うが、小節は1回しか演奏しないので、目を通す長さは、半分くらいなのである。

 

本来のチェンバロの演奏では、ダンパーペダルがなく、ピアノのように音の減衰が

ないため、音が早く減衰し、演奏時間は早く終わる傾向があるが、その代わり、

フレーズのリピートは間違いなくあるので、時間は70分くらいはある。
(CDでは1枚に収まる)

2つめの理由は、演奏が早いテンポであること。

当然が弾くので早く終わる。そして、味わいは濃厚になる。

55年版を聞いてしまうと、81年版は全く響かない。
(少なくとも僕の耳には).

まるで、鬼滅の刃(4D)の映画を映画館でみたあと、ホームシアターでBDで見るようなものである。
BDで、プロジェクターで、家で見る鬼滅の刃は、子供だましである。
(いや、椅子がグルグル動いたり、水蒸気を吹き替けられたり、

足元をぺんぺんはたかれるなど、むしろ子供だましは4D映画なのだけど、

家でみる映画なんぞ、4D要素がないだけで全くつまらぬ、のよ)

そう、この55年と81年は、グールドのストイックさが気持ち悪いくらいに変容した差であり、
リスナーとしては面白さで雲泥の差を感じる。

その面白い方の55年版だが、録音から採譜した楽譜が出ている。
僕も持っているし、今でも普通に売っている。
ページ見開きで、左がバッハのオリジナル、右がグールドの演奏という構成で、

155pageある。左側にはリピート記号がついているが、グールドは一回たりとも

リピートしていないのがよくわかる。僕は米国の本屋で40ドルで買ったが、

webであちこちで手に入る。

1955年版の録音だがは、素晴らしい。

モノラル録音なんだけれど、録音のクォリティは申し分ない。
  むしろ、モノラルの再生だからこそ、オーディオ的に左右対称で再生できているか

(つまり真ん中にきっちり定位しているか)、その定位は高域と低域でバラバラにならないか、

など、チェックできる。ボーカルのモノでの定位のチェックもできる。

1955年版の採譜したものは出ていないと思うが、1955年の録音では、

いろいろなテイクを収録したCDboxが出ていた。


 LPレコードサイズのboxのCD7枚組で、当然にLPもついているが、なんと、グールドの

無数の書き込みが入った録音時に使ったスコアを、そのまま複製したブックレットがついていた。

これだけで買う価値がある。僕は2017年に日本で12,824円で買った。

いま手に入るかどうかはわからないけれど。