営業では当たり前のようにやっていることでも、

じつはマイナスに作用していることが意外とあります。

今回は、そんな禁句について。

 

………………

 

「えっ、禁句ですか!」

「そうです。電話でアポイントを取るとき、絶対に言ってはいけない言葉です」

 そんなはずはないと思うけど、言葉遣いも間違っていなかったし……、耕介には心当たりがなかった。

「たぶん自分では気づいていないでしょう。ひとつは“お世話になっています”です」

 耕介は耳を疑った。営業として当たり前のように使っている、いわば決まり文句が禁句だなんて。

「えっ、でも……」

「意外でしょ? でもこれは事実です」

 納得いかない顔をしている耕介に、黒川は説明をはじめた。

「電話で営業をしようとしても、たいていはすぐに断られてしまいますよね」

「まあ、そうですね」

「どうして断られるかというと、営業の電話だからです」

「???」(何を当たり前のことを言っているのだろう)

 

「逆の立場で考えてみましょう。自分が仕事をしているときに、いきなり営業の電話がかかってきたらどうしますか?」

「切ります」

「どうして?」

「仕事の妨げになるからです」

「そのとき、相手の話をじっくりと聞きますか?」

「まあ、ほとんど聞きません」

「なぜ?」

「とくに興味のないものの話など聞きたくないですし、時間のムダですから」

「そうですよね」

 と言って黒川はニコリと笑って、一呼吸入れた。

 

「いきなり電話をしてきて一方的に商品説明をされても、聞きたくないのは当然です。それについうっかり聞いてしまうと、延々と時間を取られてしまいますしね」

「そうです」

「受け手の立場だと、営業の電話はすぐに断るのに、営業の立場で電話をすると、その断られるようなアプローチをしてしまうのはなぜでしょう?」

「あ、……」(そういえばその通りだ)

「それは、営業とはこのように話すべきだという暗示にかかっているからです」

「暗示……ですか?」

「はい。誰が決めたのかは知りませんが、世の中では営業マンというのはこういうものというイメージが出来上がっています。

 たとえば営業マンが電話をするときには、“お世話になっています”や“お忙しいところすみません”などを決まり文句のように使っていますよね。

 また、“明るく元気な声で話す”というのもそうです。多くの人がこれらを無意識に、そして当たり前のように使っています。ここに落とし穴があるのです」

「どういうことですか?」

 落とし穴と聞いて、耕介は思わず身を乗り出していた。


つづく