私はそのからくりに気づかず。
かつて何度か。
それを承認し。
その度に失敗し。
こちら側の世界に存在し続け。
『私の心』の一部の一つには。
生贄としての役割を与え。
また、別の一部には。
永遠にも思える煉獄の苦しみを。
味わわせ続けた。
その度に。
無へと還りたい『私の心』の一部は考えた。
何故、計画が失敗したのかを。
私は。
天寿を全うし、生き抜くことを選択し。
その覚悟を決めた。
けれど、それは。
ひたすら無に還ることを切望し。
恋い焦がれる『私の心』の一部にとって。
今のこの。
煉獄の苦しみが。
天寿という。
果てしない終着点に辿り着くまでの間。
その悠久とも感じられる刻の流れの間。
長きに渡り、続いていくことを意味していた。
『私の心』の一部は絶望した。
泣き叫んだ。
そして、それは。
今まで蓄積されたナニかを爆発させ。
私への。
激しい怒りと憎しみへと。
その姿を顕在化させた。
『私の心』の一部には。
なりふり構っている余裕は、もう無かった。
確実に。
無へと還れる条件を兼ね備えたナニカを。
誰かを。
その嗅覚を、最大限値にまで引き上げ。
探し続けた。
その条件とは。
私と同質かつ、それ以上に『心の傷』が。
膿み腐っている存在。
かつ。
私が敷き、進もうとしているベクトルとは。
真逆の方向に。
ベクトルを敷き、進んでいる存在。
そして。
そのベクトルのエネルギーが。
私のベクトルが及びもつかない。
強大なエネルギーを放ち続ける存在
『心の傷』が。
私と同質に膿み腐っていなければ。
同じ土俵に立つことすら叶わない。
けれど。
たとえ。同じ土俵に上がったとしても。
私よりも弱いエネルギー量の持ち主では。
私のエネルギーに引きずられ。
逆に相手が、無へと還ってしまう。
同質のエネルギーの持ち主では。
ベクトル同士が拮抗し合い。
いつまで経っても。
何も変わることがない
故に。
無に還りたいだけの。
『私の心』の一部が選んだのは。
無に還る必要性を証明する手間も。
私が承認する必要すらない。
どんなに私が。
天寿を全うする為に。
生き抜く『今』を。
選択し続けたくとも。
そんな私ごと飲み込み。
引きずり倒し。
否応なく。
無への入り口へと私を引きずり落とす。
強大な存在……
『私の心』の一部は。
ただ、ただ。
たったそれだけの条件を兼ね揃えた相手を。
探し続けていただけなのだ。
恐らく。
今でも、ずっと……。
嗚呼。
私はなんと愚かで、傲慢なのだろう。
焼き場での。
彼との最後の別れの時。
棺の窓から。
眠るような穏やかな顔を覗かせる彼に。
慟哭の中。
私はこう、訴えた。
『ごめんなさい。ごめんなさい。
母を連れてこれなくて、ごめんなさい。
母を説得できなくて、ごめんなさい。
最後に。
あなたの姉に会わせてあげられなくて。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
どうか、赦してください……』
本当に。
私はなんて。
愚かで傲慢なのだろう。
己の父母(ちちはは)を憎み。
己の姉弟を怨み。
その存在すらをも否定し。
拒絶しつづけている。
そんな。
『母』という。
『鏡』を見ながら育ったというのに。
こんなにも身近に。
私と『私の心』の一部との関係を。
等身大に。
映し出した『鏡』があったというのに。
私は常に。
自分とは関係のない。
『母と母の家族の問題』としか見ていなかった。
本当に。
本当に。
私はなんて。
愚かで傲慢なのだろう……。
そうして。
彼の死と供に。
私に連なる血脈の。
『家』という支流の筋の1つが。
途絶え。
この世界から。
完全に消え失せてしまった……。
<続>