18ページの絵本は、小さな町の公園に車両が保存されている光景から始まる。にぎわっていた鉱山が閉山し、寂しくなった町を元気にしようと、「一郎さん」や「町長さん」が一円電車を再び走らせ、子どもたちが笑顔を取り戻す。実話に基づいたストーリーだ。
- 一円電車(後方)の復活など地域おこしに尽力した中尾さん(遺族提供)
一円電車は、明延と朝来市の神子畑を結び、鉱石運搬のほか住民の生活の足になっていた。1987年の閉山後、過疎化が進む中、一円電車などの近代化産業遺産を活用して地域に元気を取り戻そうと活動したのが、「一郎さん」ことNPO法人理事長や明延区長を務めた中尾さんだった。
復活した電車の体験乗車会が定期的に開かれるようになり、活動を盛り上げようとしていたさなか、中尾さんは65歳で亡くなった。
物語を書いたのは、同市八鹿町九鹿、元JA職員澤瀉(おもだか)洋子さん(65)。7年前に一円電車を熱く語る中尾さんに出会い、絵本で子どもたちに伝えることを思い立った。ようやく書き上げたその日、町長さんのモデルの広瀬栄市長から中尾さんの訃報を聞いた。
絵を描いた加古川市在住の元子ども服デザイナー小橋智美さん(46)は養父市八鹿町出身。明延に同級生がおり、「古里の役に立てれば」と懐かしい風景を思い浮かべながら筆をとった。
出版にこぎつけた澤瀉さんは「最初に中尾さんに読んでもらいたかった。一円電車に託した多くの人の思いが届き、元気なまちになりますように」と涙ぐんだ。
絵本は税込み600円。問い合わせは、やぶ市未来の会(079・664・2110)。