動物園老いる人気者 | 国際そのほか速

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 薄暗い獣舎のなかで、骨張った、しわの目立つ巨体がゆっくりと動いた。

  • ゆっくりとした動作で餌の干し草を口にするシロサイのシンシア。体が重い動物は、脚の関節が悪くなりやすいので、グルコサミンなどのサプリメントが毎日与えられている(仙台市の八木山動物公園で)
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    •   仙台市の八木山動物公園で飼われているシロサイのシンシアだ。国内で2番目に高齢の45歳で、人間に例えれば100歳近いおばあちゃんだ。寒さが厳しい日は暖房の入った室内で過ごす。高齢で皮膚が乾燥しているため擦り傷が絶えないが、担当飼育員の柴宏香さん(24)は「おいしそうに餌を食べ、ゆったり流れる時間を楽しんでいるように見える」と目を細めた。

        シンシアのファンで、週に2、3回は会いに来るという同市の主婦、村上博美さん(53)は「いつも元気をもらってます」と笑顔を見せた。

        「はな子さーん」。園内に子どもたちの声が響く。井の頭自然文化園(東京都武蔵野市)のアジアゾウ、はな子は園内で一番の人気者だ。今年68歳を迎え、国内の長寿記録を更新中だ。

        全国の動物園で、飼育されている動物の高齢化が進む。ワシントン条約による取引規制の対象で、自由に若い個体を輸入できないゾウやサイなどの人気動物は特に深刻だ。動物園が相互に動物を貸し借りし、国内で繁殖させようとする取り組みも行われているが、一方の動物園は人気者を手放すことになるため、うまくいかない場合もある。

        一昨年、飼育していたアフリカゾウが死んだ福岡県の大牟田市動物園では、入り口に「ぞうはいません」と書かれた看板が立つ。「今でもゾウを目当てに来てくれる人がいる。がっかりさせたくないですから……」と職員がつぶやいた。椎原(しいはら)春一園長(55)は「日本の動物園は、今いる動物たちを最後まで飼育し、そのありのままの姿から命について学ぶ場へと変化が求められている」と指摘する。

        写真と文 大原一郎

       

      • 国内最高齢のアジアゾウ、はな子。しわだらけの体は年齢を感じさせるが、飼育場を元気に動き回っている(東京都武蔵野市の井の頭自然文化園で)

         

        • 飼育していたアフリカゾウが死んだ福岡県の大牟田市動物園では、毎朝、「ぞうはいません」と書かれた看板を職員が設置する

           

          • 再びゾウを飼育することは難しいため、広大な元ゾウ舎の一部を網で仕切ってカピバラを飼っている(いずれも福岡県大牟田市で)