劇団未来「ルーム1307」(脚本・演出 しまよしみち) 80点 劇団未来お得意の翻訳もの演劇。ところがこれを大阪弁の演劇に大幅に変更し、舞台設定を工夫し、いつもの倍ほど大きく設定し、驚くべき仕掛けを設え、それがこの劇の魅力を倍増させた。 面白い。ストーリーが魅惑的だから、どんどん進んでいくが、まるで上質の戯曲を読んでいるよう。たまらなくいい。 まあ、よく考えた演劇であります。最後まで展開は見えず、とても感服した。これは劇団未来の新しい歩みと言えるだろう。この演劇未来、今回で151回目の上演らしい。すごいぜ。
SEX (ダーグ・ヨハン・ハウゲルード)(2025 ノルウェー) 80点 北欧から届いたコメディタッチの深刻劇。一つはふとした欲望で男と浮気をした夫が妻に告白したことから思わぬ波紋が、始まる、。もう一つは夢で女として見つめられたことから自分の中に潜む異性を意識する男の話。ほとんどがポンポン出てくるセリフで観客に考えさせる展開となっており、見ている間、自分だったらどうするかなあと常に考えてしまう不思議な作品であります。 何か、ホン・サンス的映画の間合いと展開が奇妙に面白い。 夫が簡単に浮気を妻に告白したために苦悩と不幸が始まる展開はアニエス・バルダの秀作「幸福」をどうしても連想してしまう。妻が浮気相手が同性だったから悩んでいるのか、それとも普通の浮気でも悩むのかはっきりしなかったが、夫は大人なのに幼稚だということなのでしょう。 もう一つの話の方は自分の中に潜む異性の存在を認めたくない男の話と考えればいいのでしょうか、少し分かりませんでした。ラスト、女性として踊っている姿を見れば、むしろ喜んでいるようにも見えたが、、。
急に具合が悪くなる(濱口竜介)(2026 日) 90点 3時間16分の上映時間、トイレを十分注意しながら館内に入る。ずっと濱口を見てきたが、今回の作品は格段レベルが違う。まるで濱口哲学を聞いているような(見ている間は原作があるとは思っていず)、むしろ映画的でないセリフの内容に驚いていた。終わってから、原作があることに気づき、全くの濱口語録でないことを知るが、、。 施設の患者たちとまず手で接触することで人間関係に入ることが出来る。その対象は介護士、看護師から近くの住民に拡大し、患者たちの回復への一歩となる。患者たちと一対一の関係が重要なのだと。この考えは介護施設を超え、より広い地域、世界、すなわち人間が本当に和解すべき人間関係への重なりとなる。平和への祈り。私はそう見た。 岡本多緒さんの身長が180㎝近くあるので、彼女だけがエッフェル塔のように目立つ。通常の西洋との合作では日本女性として珍しい光景で、この作品に強いコントラストを与えている。かっこよく素敵だ。 二人の女性の融合にまで至るこの人類にとって永遠のテーマはすこぶる崇高だ。失礼な言葉を赦していただければ、まるで濱口じゃないみたい、と思いました。まだ50歳に達していない濱口がこんな深い人間考察を緻密に描くとは思いもしませんでした。 ええ、3時間全然退屈しませんでした。映画史においても、こんな素晴らしいスケールの大きい作品を共有できることの喜びをひしひしと感じました。今日は特別ないい日でした。
突然、君がいなくなって(ルーナ・ルーナソン)(2025 アイスランド) 80点 めずらしいアイスランド作品。俳優たちは透き通った肌がいかにも薄い光の量を感じてしまう。愛する人が亡くなったのに、公認の彼女が訪れて、思いがけない嫉妬を感じたり、ほとばしる悲しみさえストレートに表に出せない閉塞状況が続く。セリフにはあまり意味なく、この二人の女優の心象だけがこの映画のモチーフとなっている。 こんな映画、もあるのかと驚く。面白い。こういう映画って好きだなあ、、。北欧の夕日を二人で見つめ、悲しみをふたりで共有するまでに至るラストシーンは静謐な上質の宗教画のように思えた。実に冴えた映画作り。秀作である。
猟人日記(1964 日)(中平康) 75点 中平康監督昨品だが、特筆すべきは原作者たる戸川昌子が主演級の演技を立派にこなしているということだ。この原作は、当時私も読んで感心した覚えがあるほど秀逸。確か江戸川乱歩賞も獲得したはず。 ほとんど原作を忘れていて、60年ぶりに映像で初めて見たので、とても感銘すると同時に、映画的には荒い感じがしたが、やはり当時の日本が見事表現されており、懐かしさもあり感激。それにしてもほとんど片言だけのセリフの女優たちの美しいこと。中平の美的センスが素晴らしい。 稲野和子はわかったが、中尾彬はわからず。主演の仲谷昇は超カッコいい。昔の俳優たちはみな美貌を武器にしていたんですね。なるほど、、。
まぐさ桶の犬 (文春文庫 2025) (若竹 七海 著) 80点 若竹の人気シリーズ、5年ぶりの発表にファンは大喜び。女探偵葉村晶。古本屋のバイトもしている。チャンドラーの血脈を残しつつ、クリスティの饒舌でぐんぐん進んでゆく、こたえられないほどのミステリーへの愛情を感じながら、超エスプリを香辛料として嗅ぎながら、物語は進んでゆく。 とにかく話は登場人物が多すぎて頭が整理できないが、女探偵葉村の語りが面白すぎて、途中何回にやにやしたことか、、。思いがけないラストというわけではないが、想定されたラストで安堵しながらも、やはりそこにチャンドラーを感じるのは私だけか。超人気ぶりの若竹シリーズ、もう絶品だね。
片思い世界(2025 日)(土井裕泰) 80点 さすが土井、坂元コンビ。心にしみるいい映画を輩出してくれた。最初の20分ぐらいが、全く白紙で見ていたからとてもびっくり、あのラフマニノフのコンサートで設定が暴露され、凄すぎるファンタジーにもうギンギンぎらり、目を見開きずっと見続けていました。 怖い話なんだけど、やはり底流を流れる優しいまなざしがいいなあ。こんな世界がもしあるのなら、それはそれで素敵で、ほっこりする。せちがらいこの現生を生きてる私たち、素晴らしい一縷のファンタジー、ありがとう!
ザ・ベストミステリーズ2011 (日本推理作家協会 )(講談社) 80点 2011年度版短編部門ミステリー秀作集。12編が収められているが、秀作と言えばまさにそうなんだが、その中でも毛色の変わったものとか、これはすごいプロットだなあとか、感心する小説があふれており、ホントこれを読むのが楽しみであります。 冒頭の【人間の尊厳と八00メートル】(深水黎一郎)はよく考えられたなあととにかく感心するすることしきり。人間業でない。なんと、宇宙物理学の本質が語られている。 辻村深月の【芹葉大学の夢と殺人】はミステリーというより、辻村のほとばしる筆の勢いにもうそれは驚きを隠せず、一気読みでした。などなど、こぅいう厳選されたミステリーを読むのはこの上ない喜びであります。
箱の中の羊(2026 日)(是枝裕和) 70点 是枝の作品は全部見ています。でも、最近はこれぞと言う作品を生み出せない感じがします。初期のドキュメンタリータッチのいかにも是枝作品の秀作群から、中盤の演技達者役者に負う大作を過ぎ、いよいよこれから何を撮ろうかなあと思いあぐねたかのような(叱咤激励)後の作品が本作だとしたら、まだ迷っているかなあ、という感じがします。 冒頭のAI人間を家に迎え入れる描写はそれぞれの心理が交錯し、観客も気持ちを同一化でき、なかなかのものだった。しかし、中盤からはAI人間の悲哀を描くものではないことに気づき始め、是枝は彼らとの共存の方に展開する。そうなると、我々の心の拠り所は拡散し始め、何かまるでそこらにあるような通常のSFファンタジーを見ているいるような気がしました。 題名の「箱の中の羊」はサン・テグジュペリの「本当に大切なものは目には見えない」という言葉から来ていると思うが、あまり生かせていないようで、、。次作に期待したい。
ピッコロ劇団「走る本屋と星降る島」(作・伊地知克介 演出・岡田力) 80点 まるで自分の童心度を確かめるかのようなめくるめくさわやかファンタジー。わたしのようなもうずっしりと人生の垢を塗りつけられた吾人にはなかなか入り込むことはできかねぬと思いきや、観客の(若い女生徒が大勢いたこともあって)空気も相まって、気持ち良い時間を持続できました。 たまにはこんな純粋な気持ちになれる演劇もいいなあと思う。夢がありますね。