大逆転! | バイク好き白血病患者の爆笑闘病記

バイク好き白血病患者の爆笑闘病記

笑える闘病記を書いたつもりです。病気を持つ人々が、少しでもこの記事を見て心の支えとしてくれたなら幸いです。記事は物語形式になっていますので、どうぞはじめから読んでやってください。

69日、最後の外泊で家に帰ってきた僕は、彼女とデートに出かけました。明後日、僕が無菌室に入り前処置が始まることは彼女も知っています。僕は、無菌室に入っている間は誰も面会に入れないつもりでいました。必要なものはもちろん持ってきてもらわなければいけないのですが、それ以外は本当に誰も入れないつもりでした。だって、見ている方だって辛いでしょう?それに僕はせっかくお見舞いに来てくれても何にもできないわけですからね。とにかく、辛いときも楽なときも一人でいる。看護婦さんと先生以外には絶対に苦しいところを見せたくない、そう思ったのです。ですから約1ヶ月間、孤独な闘いになるでしょう。しかし僕には最高の医療チームがついていますから、大丈夫なのです。ちょうどワールドカップサッカーもやっていますからね。ですから、無菌室を出て個室に移り、面会が許されるまで彼女ともしばしのお別れになります。だからね、今日はどんなに泣いても許してあげるのです。さて、どこに行きましょか。う~ん、とりあえずやっぱこういう場合は海ですよね。えっ、ベタですか?普通過ぎますか?あまりアイディアがないもんでね、ほっといてください。

「今日は泣いてもいいよ。」

「ううん、泣くと止まらないから泣かない。」

彼女は必死に涙をこらえて頑張っています。いじらしいですね、なんか。僕のほうが泣きそうですよ。思えば、発病してから2年弱、一番辛い思いをしてきたのは彼女かもしれませんね。僕は発病したとき、彼女に言ったのです。将来子供ができなくなるかもしれない。治療もかなり苦しいものらしいしひょっとしたら死んでしまうかもしれない。そうなったら辛いから、別れてもいい。すると、馬鹿なことを言うな!と怒られてしまいました。彼女は子供が好きなのです。なんせ保母さんをしているくらいですから。それでも、子供はいなくてもいいと言ってくれました。そして、自分の骨髄を調べて欲しい、とまで言ってくれたのです。本当に彼女には感謝しています。

「退院したら、いっぱいわがまま聞いてもらうからね!」

「う、うん。」

ひええ、こりゃ大変です。すると彼女は、1本のカセットテープを僕にくれました。元気が出るようにと、作ってきてくれたのです。嬉しいですね、こういうのはすごく。その夜は確かラーメンを食べに行きました。当分の間食べられないですからね。本当は寿司を食べたかったのですが、僕はこのときは既に低菌食を食べていて生物は禁じられていたのです。食事が終わり、しばらくしてから僕の携帯電話がけたたましく鳴りました。おやおや、なんですかね、こんな時に。出てみると、僕の母からでした。

「今病院から電話があって、すぐに連絡が欲しいってさ。」

えっ、病院から?いったいなんだろう。もしかしてやり忘れた検査があったとかいうんじゃないだろうな。それとも薬をちゃんと飲んでいるかのチェックだったりして。まさかね。そんな僕の予想を裏切り、電話の内容は衝撃的なものでした。

あ、もしもし、サクですが。はい、え、ええっ、移植中止?

いやいや驚きましたな。なんと、移植が緊急中止になったというのです。理由はドナーさんの都合で詳しいことは書けませんが、なんというかあまり聞かないような理由であることは確かです。ドナーさんは僕の命を救うために精一杯頑張ってくれたようです。しかし、ある理由で中止となったのです。僕はもちろん驚きましたが、彼女もなんだか状況がうまく飲み込めないようできょとんとしています。

「と、ともかく明日病院に帰ります。」

このとき、僕の心境は複雑でした。できれば早く移植をしてしまいたかったのです。ドナーさんも血液型までぴったりの最高の条件の方でしたからね。それに、ここまで来るのに大変な長い道のりだったのです。1年近くかけて、ようやく覚悟が決まったところだったのです。病院では毎日毎日イメージトレーニングを繰り返していました。様々な検査をして、IVHも入れました。どうして・・・という思いが込み上げてきました。しかし一方で、何故かほっとしている自分がいたのも事実です。まあ、いずれにしても中止となったのだから、次のドナーさんを探すか、それとも薬で様子を見るかの選択になるわけです。ああ、また迷わなければいけないなあ。

僕は次の日早速病院に帰りました。そして、先生方に話を聞きました。ドナーさんはどうやら必死に努力してくださったようです。しかしながら、このような結果になってしまいました。これは仕方のないことです。むしろ、ドナーさんが心を痛めているのではないかと僕は心配になってしまいました。ドナーさんは僕のことを詳しくは知らないはずです。もし、僕が苦しんでいて一刻も早くドナーさんの骨髄を必要としていると思っているならば、少なからず心を痛めているはずです。この場を借りてドナーさんにお礼をさせてください。ありがとうございました。僕は元気ですし即刻移植を必要とするような容態ではありません。今回は中止ということになりましたが、僕はむしろあなたのその勇気によって希望を与えられました。顔も知らない赤の他人のためにそこまでできる人はそう多くはないと思います。あなたの勇気は、現代の希薄になった人間関係のなかに射した一筋の光明です。もしあなたがピンチに陥ったならば、命を投げ打ってでも助けたいと思っている人間がここにいることをどうか忘れないでください。実際は接触することも名乗り出ることもできないのですが、少なくとも僕はそう思っています。

さてさて、また迷わなければいけなくなりましたなあ 目 どうすっかなあ。一応ですね、この時点では次のドナーさんを探して早めに移植をするつもりでいたのです。でもね、考え方によっては今回移植がストップになったのはなにかこう運命のようなものに導かれたような気もするじゃないですか。まあ、僕は運命という言葉は好きじゃないですけどね。そこで、僕は数名の医師から、セカンドオピニョンを聞いてみることにしたのです。