「あいつの隣とか…」

 

その時は既に慣れていましたが、やはりこころに来るものがありました。

 

周りと違う自覚はありました。

でもどうしても他人と同じでありたかった。

皆と同じように肩を組んで笑いあえる人が欲しかった。

 

普通にならない僕は、それでも普通の人間として扱われたいという矛盾を抱えてました。

 

今でも頭の裏にこびりついている傷跡。

そんな重荷を抱えたまま社会人になった僕はやはりうまくいくはずがありませんでした。

 

苦悩の毎日。

普通ができないもどかしさ。

溜まっていくストレス。

 

そんな毎日の中で出会った老婦人、杖がないと歩けないような背中を丸めたその人は駅の構内で右往左往してました。

帰り道の電車がわからないそうで、聞けば同じ帰り道でした。

 

手を引いて、乗り換えの原宿駅でお互いのことについて少し話しました。

 

地方出身、若いころに上京し靴磨きで生計を立てていたそう。

その方は僕の話を聞いてくれました。

思い出せば悔しくて涙も出てきました。

 

そっと僕の手にご婦人は手を添えてこう言いました

 

「私は、あなたにあえてよかったと思うわ」

僕は悔し涙とは違う涙があふれてしばらく止まりませんでした。

 

分かれ際、両手を高々と上げて

「フレー!フレー!がんばれ!」

帰宅ラッシュの中で恥ずかしげもなく両腕を振る彼女に、背なかを押されたのを覚えてます。

 

 

「あなたに会えてよかった」

「あなたでよかった」

 

僕はたくさん言うようになりました。

相手を認め、自分の人生に介入することに感謝するその言葉

きっと、僕の人生の中で大切にし続ける言葉。

 

 

次回【現代編】僕の好きなこと