金曜日から水曜日まで | 望月六郎的日記『中年勃起』

金曜日から水曜日まで

七月四日

 

先月二十八日、止め通し稽古だった。

技術的な問題点だったり、見え方だったり、タイミングだったり、音との関係だったり

前日の通し稽古中メモしたチェック点を中心に事は進んだ。

けど、最大の注文というか、僕が一番伝えたかったのは、観客に対するマインドの持ちように関してだった。

演者なら、お客様に感謝する気持ちはもちろん誰にもあるでしょう。

でも、本来演者はただ与えられるだけの存在じゃない。

演技、というか出し物を観客に提供して、感動を与える事ができる。

尊敬や感謝を受ける側にもなれるし…一流を目指すなら、そうじゃなきゃいけない。

俺のここを、よーく見るんだぞ!見逃すなよ!

たっぷり味わったか!

上手く出来たなら、鼻高々だ。

 

その上で終演の挨拶で頭を下げる。

しかし、その眼差しには「どうだい!」って気迫が籠る。

中瀬古健には、そんな気持ちで本番に臨んで欲しい…そんな心意気を何遍も言葉を変えて伝えた。

 

土曜はガードマンお休み。

日曜は臨時依頼で出勤した。

月曜は日勤で新井薬師駅、地下化工事の現場にいた。

その日の夜はJR津田沼駅付近の線路盛り土調査で夜勤。

深夜2時半に仕事は終了してしまい、4時半の始発まで駅ベンチで読書。

翌火曜日は連勤明けのお休み。

水曜日は再び、津田沼での作業も、速攻12時半に終了。

駅前モリシア生鮮市場にて食材を購入後帰宅。

昼食とシャワー。

座布団を一つ引っ提げて、3時前に家を出て御徒町到着。3時半湯島『道』に到着しました。

先週、「会場の構造上、一番前席は桟敷、座布団がいいんじゃないか」と提案したからだった。

前列に、座布団大のダンボールが敷かれているのを見つけ、暑さの中運んだ甲斐がありました。

 

この数日間、仕事中、晩酌中、僕は何度も『駆け込み訴え』を思い出し、反芻して、味わった。

まだ終わった訳じゃ無いけど、本当楽しい月日だった。

もちろんその理由も考えました。

通し稽古が終わったら、僕の気持ちを中瀬古に伝えよう、と考えていました。

 

四時、ゲネプロ開始。

この日は六時から『道』のウェイターを中瀬古に変わって引き受けてくれた佐々木健=S健が立ち会った。

初めての観客だな。

 

音楽、効果音も出揃った中、緊張の時間が過ぎました。

前回の通し稽古は上演六十分。

この日のは七十分で、上々、というか申し分のない仕上がりだった。

 

確かに、僕は構成を考えて、演技指導もした。

先週の通し稽古の折はハラハラもしたし、関係者の立場でもって、つい力みもした。

つまり見守っている、そんな感覚でした。

しかしこの日は違った。

ただただお見事!

つまりお客さんの立場で僕は一人芝居『掛け込み訴え』を堪能できたのだ。

「ゆっくり話せるようになったので、だいぶ楽になりました」

中瀬古は演者として自信満々でした。

 

上演後の挨拶が済み、会場灯が点灯して、自然注目されたS健が、2分ぐらいの間、声を出して笑った。

「なんだよ、どうしたんだよ」と僕が声を掛けても笑いは止まらなかった。

つまり、一人芝居を大いに笑われた訳だが少しも嫌な気分にはならなかった。

きっとS健は鑑賞後の感情・感想を言語化できなかったに違いない。

だが見終わった時の気分=嬉しさ、喜びの気持ち笑いで表現したんだな、と僕は感じたからだった。

 

映画『未知との遭遇』で終始イラついた主人公を演じたリチャード・ドレフィスは苦労の結果とうとう異星人に出会う。

で、その瞬間から笑いが止まらなくなってしまった。

笑顔が隠せなくなったのだ。

あの主人公は、幸福感に包まれていたもんなあ。

 

僕はそんな事を思い出しました。

 

着替え中の中瀬古に、痩せたかどうか、尋ねた。

「今62キロです。4キロ痩せました。中国に留学する頃の体格です」

どんな生活なんだか聞くと、眠れないそうだ。

「一行思い出して、こうしよう、ああしようと思うと止まらなくなる」

そんな毎日だそうです。

 

飲みを誘う気はなかったけど、「少し飲みます」って事なので僕は、階下の『道』で待った。

S健も少し気持ちがまとまったのか、感想を聞かせてくれた。

 

「この先は欲張らずに、もっとじゃなくて、確実に自分のものにする。ひたすら磨こう」

中瀬古がやって来て、僕はこの先の考え方を伝えた。

中瀬古も納得してくれました。

 

その後、僕は考えていた中瀬古への感謝の気持ちを伝えた。

 

「まだ終わった訳じゃ無いから、早いって言えば早いかもしれないけど、

僕の今の気持ちは楽しかったの一言です。

『駆け込み訴え』を一人芝居でやろうなんては発想は僕には全く浮かばない。

だから、健ちゃんに依頼された時、どうすりゃいいんだろう…とひたすら考えた。

僕は今、自分のやりたい事を年2回お芝居にしている。

やりたい事やってるんだから、楽しいし、ある意味幸せなのかもしれない。

でも、それはただ自分の引き出しから、引き摺り出した、手垢のついたモチーフなのかもしれない。

考えてみれば、映画撮ってた頃は基本依頼があって、僕は自分のベストをなんとか捻り出そうとしていた。

それが楽しかったし、充実していた。

久々にそんな気分を味わえた。

なんだかやる気も出た。

先週、止め通し稽古後『道』で会った『崇巧=「たかく」とも何かやってみたいと思っているんだ。

ありがとう。感謝している」

 

今日は最後のゲネプロが19時開始です。

酷暑の中、あと2回、2枚ずつ座布団運ばねばなりません。

それじゃあ。