オイディプス王 | 望月六郎的日記『中年勃起』

オイディプス王

4月18日

 

昨年11月公演、前回の公演『セクシー女優事変・代償戦争リスカ&リフレ篇』中、今作のことを考えていた。

元々、『人妻死闘篇』と『代償戦争』は順番逆の予定だった。

元ネタの『仁義なき戦い』シリーズ第二作が『広島死闘篇』、三作目が『代理戦争』だった為これに準えたかった。

だが出演者の都合で順番逆にせざる終えなかったのです。

ちなみに今年11月に予定している第四弾は『絶頂作戦篇』で、これは『仁義なき戦い』四作目『頂上作戦』をもじっています・

 

で、話は『人妻死闘篇』に戻ります。

根本的に、どんな話にしようか、と考えたとき浮かんだのがギリシャ悲劇の『オイディプス王』でした。

だいぶ以前に読んだ事はあったし、『父を殺して母と交わる』のストーリーはもちろん知っていた。

『オイディプス王』が精神分析の祖、ジークムント フロイトにヒントを与え

『エディプスコンプレックス』と言う概念が誕生したことも知っていた。

 

幼児期に抱く『母に対する欲望』…意識的にどうかは別にして無意識的、潜在的には存在するようにも感じます。

 

『人妻死闘篇』のヒロインは人妻ってぐらいだから、夫もいるだろうし、子供だっているかもしれない。

そんな当たり前の話から『人妻死闘篇』は家族をめぐる物語にする事にしたわけです。

 

奥さんがセクシー女優になるのは、夫としては大変なことだろう。

しかし旦那は勿論大人だから、色々な事情を加味してその衝撃を受け止めることもできる。

でも子供の場合はどうなるのかな、と思った。

実際は案外平気で現実を乗り越えるのかもしれない。

 

しかし日本で起きる殺人事件の約半数が家庭内で生じているのだ。

多感な少年なら何しでかすかわからない。

大きな問題が起こったとしても不思議ではないのだ。

 

しかし、問題はここから話をどう喜劇…娯楽作品に仕上げるか…これにはだいぶ思案しました。

なぜならだいぶ以前に「今後笑えない作品は手伝えない」と妻に諭され、それ以降実行しているからです。

 

手始めに『オイディプス王』とその関連書物を数冊読んでその後、文庫になってるフロイトの書物も全部読んだ。

 

フロイトは高校生の時、よくわからないままに読破してはいた。

面白かったと言うより正直修行のような体験でした。

しかし今回改めて読み直してみると、大変に面白く感じる事が出来ました。

以前の時は意識出来なかったフロイトが生きた時代と、著作との関係性を理解する事ができたからです。

 

哲学書で言う『時間』と『空間』と言う概念それぞれが、『歴史』と『土地』に対応している、と考えると…

現在繰り広げられているウクライナや、パレスチナの戦争が、

どう言った考えを基にして始まって、継続しているか、その理屈がいくらかわかる気がします。

個人は自我だけ生きてるわけじゃない。

それを取り囲んだ『超自我』とか『S』の影響を受けている、って考えは分かり易かった。

本当わからなかった、ラカン、もいっぺん読んでみるかな。

 

話は再び『人妻死闘篇』に戻ります。

読んでみた『オイディプス王』も『フロイト』は面白かった。

ただしSO BIG!…そう簡単に換骨奪胎できるような代物ではない。

 

いよいよ時間切れが近づいて、もうこれは体当たりでぶつかるしかない、と言う結論に達した。

って言うかそれしか方法ありませんでした。

つまり、今回は「『ギリシャ悲劇』と『夢』にチャレンジ!」ってこと、決めたわけです。

勇気があるって言うか無謀にも感じてました。

 

しかし幸いに「『神話』は大変『夢』や『精神世界』と相性がいい、んじゃないかな?」って想いなくはなかった。

そこでもう一つ、ギリシャ神話のミノス王の物語をもち出すことにした。

『母親がおかしなものと交わった』…その結果生まれてしまう怪物、ミノタウルスをおまけに登場させることにしたのです。

相当なてんこ盛りだな。

 

しかし、簡単にはいきそうにない、と言う想像は僕から離れない。

何しろ『人妻死闘篇』は現代劇で舞台は東京都府中市。登場人物は主にアダルトビデオ業界人なのだ。

全てが小粒で、つまり極めて下世話な世話物になりかねない。

 

しかし、僕らのシリーズには謎大き宗教家『情縞仲人』もいる。謎の清掃婦『角筈濡羽』もいる。

はちゃめちゃなパワーを有するキャラクターが何かを引き起こせば、何とかなるかな…

甚だ自信がない中、執筆を進めた為、いつにも増して先に進みませんでした。

出演者スタッフの皆さん迷惑掛けてすみませんでした。

 

でも『ギリシャ悲劇』だの『夢判断』だの、『ミノタウルス』を持ち出すと、

『下世話な世話物』にある面、なりようがなくなった。

その結果、ぶっ飛んだスペクタクルになりました。

 

『人妻死闘篇』には数々の動物が登場します。

大変立派に造形できた競走馬、生まれたばかりの仔馬、繁殖牝馬、当て馬、種馬…

そして最後に立派な牛が登場します。

 

これも、本書いてる時点では『これどうやって舞台上で再現するのかな?』と言う大いな疑問がありました。

映画だったら、即制作費に反映する大問題です。

しかし、演劇なら優しい観客の皆さんの無限の想像力がある。

「ああ、牛ってことね。その努力買います」て思っていただく事だってある。

だったら、何とかなるかな、と思い込み、書き進み脱稿した。

しかし、稽古場で稽古するその時まで、ほんと何も手立てがなかった。

 

稽古場に牛が登場した時はほんと嬉しかったなあ。

 

一人の人間をどう牛に見立てるか、から始まった思案は殆ど頓挫しかけていた。

 

その時僕が吐いた言葉を僕ははっきり記憶している。

「…どうにもファルスが足りないんだよな」

すると舞台監督も務める麻生金三が、途方にくれてる皆んなを代表する形で僕に尋ねた。

「ファルスって何ですか?」

そこで僕は

「男根、ちんぽってこと。でも精神分析の世界じゃ、権力の象徴的な存在・シンボル。戦争なんかでも大いに役立つ」

的な答えを返した。で本当にその時だった…突然あるアイデアが降ってきた。

僕は「そうか分かったぞ!」って思わず声にしていた。

その後、僕と男性出演者一人と名乗り出た四人の女性勇者とで、僕らの牛作り模索の旅が始まった。

最初は訝って周りを取り囲んでいた皆さんも、およそ30分後のことです。

改良に改良を経ていよいよ爆誕した『牛』に大変感心してくれました。

 

当然、ミノス王の神話なのですから、牛が交わる。

その結果子が生まれる。

怪物ミノタウルス誕生ってわけです。

 

何度も何度も笑いが湧いて、稽古場は大いに盛り上がりました。

僕も長いこと生きてきましたが舞台上でこんな混乱した光景を見たことはあんまり…殆どなかった。

 

で、この稽古が終わった時、僕の隣で一部始終を見守っていた劇団員・野村亜矢が発した言葉も忘れられない。

 

「本当、思った以上に『牛』ですね」

 

「そうか、分かったぞ!」って声を上げた僕も、僕の想像以上の牛の出来にすっかり感激してました。

うちに帰ってしばらく寝れなかったもんな。

ちょっとの間、稽古場留守にしていた座長の丸山が、次の稽古で僕らの作った牛の芝居を見て僕に感想を伝えてくれた。

 

「肉体の勝利ですね」

 

これまた嬉しかったな。

通し稽古の後音楽の五十嵐理さんから頂いたメールをコピペして今日の報告をおしまいにします。

 

『六郎さん!おはようございます!
昨日は、完成系をイメージして通しみてました!
もっと上手く繋がって、照明、音楽が加わって。

最高にスペクタクルな舞台じゃないですかー!!
嬉しかったです!!』

 

そんなこんなで今日も一時から稽古です。五時からに顔目の通し稽古です。それじゃあ。