単純な脳、複雑な「私」/池谷裕二

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2日間、まさかの寝落ち―そんなこんなんで、3時起床の夕貴です。(笑)

本書は、日本橋リーラボで紹介いただいたことがあり、同席していたbradleyが買っていたので、そのまま横流ししていただきました。

高校生に脳科学の世界を講義したものを文書化したもので、高校生に分かるようにと噛み砕いていただいているにもかかわらず、本書は結構難しい。

―なぜか?

「脳」のことを考える「脳」という言葉遊びかい!?というような危うさを常に背負っていて、その錯誤を丁寧に取り除きながら話が進むために、文書での認知することと声とボディランゲージで認知することの差分だけ、理解に対して距離がある(んだと思う)。

実際問題として、本書の中でも「生物」に関する定義や「自由意思」に関する話では、哲学や思想にふれるような場面もあり、一方で純然たる科学としての脳の機能に関する話があり、量子論の話があり、「脳」を知るということはあらゆる学問からのアプローチが必要になってくるという現実もあらわになっている。―ゲーム理論に関する本でも紹介したような気がするが、近代までの学問が専門性特化だったのに対し、現代の学問は専門化した学問をつなぐ、統合していく方向へと進んでいるような気がする―そんなことを考えさせてくれるところもある。

と小難しい背景を考えながら、読み進めていってしまうのは夕貴の悪い癖であるが、読了後にタイトルに戻った時に、なるほど、言い得て妙というのはこういうことを言うんだなという気持ちになった。脳は割りかし単調な機能の組み合わせでしかなく、そこが複雑に作用するのは個々の単調なシステムの集合体がまるで意志を持っているかのように動くからで、脳の機能とアウトプットの多様さの間にある「奇妙」を端的にあらわしたタイトルだなぁと感じた。

ただし、本書は読んだしまうと、ちょっと自己不信(そう、『自己』です)に陥る可能性もあり(笑)、気分がよくなりそうな晴れた日にじっくり読まれることをお勧めします。
海の底 (角川文庫)/有川 浩

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というわけで、時間経ちましたが、有川さんの自衛隊3作品の最後です。

3作品の中で、パニックになる感じが結構エグい感じが強いかも。スピード感もあるので、ちょっとしたパニック映画を見ている気分にもなります。

実際プロットは、各パートを時系列に並べて構成して、ということをされたそうで、そういう動きの感じられる作品でもあります。

でも、そこはただのパニック小説ではなくて、実はこの物語の肝は潜水艦に閉じ込められた子供たちの人間関係―その後ろにある集合住宅に潜む大人たちを含めた人間関係があると思う。潜水艦という限られた空間―それと土地空間的に閉じた集合住宅―土地購入が一生に一度という日本社会、しかも子供の教育の場で否応なく生まれる濃密なコミュニティの形成―その根底にある闇が実は派手派手しいパニックの裏にあって、底暗く恐ろしい。

こういうところに、実はフリーター家を買うの中に出てくる家にまつわる人間関係の裏っかわというのを用いる人だなぁっと思った。

ただ、そういう暗さを描きつつもそこからの脱却も描いている。いつもながらに爽快に。だから、有川作品は面白い。

ちなみに、夕貴は、主人公よりも悪友冬原君のサイドストリー「クジラの彼」が好きである。
空の中 (角川文庫)/有川 浩

¥740
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塩の街でも、あと2作書くぞーっと言ってました通り。

自衛隊3部作の2作目です。

たぶん、塩の街が一番究極の状態で、空の中がSFさが一番満点ではないかと思う。空を飛ぶ人&空飛ぶイキモノの物語。

本作のお気に入りは、光稀さん♪ファイターパイロットな勇ましいかの人が夕貴のお気に入りである。―というのも、実は本物の元戦闘機乗りにお話を聞いたことがあって、その過去の経歴やら、なんやらを聞けば聞くほど、命かけて国防やってるという意味の重さを感じつつも、「飛行機乗り、ましてや戦闘機乗りになるには、努力だけではない才能が必要である―」ということを聞いていたせいかしら。空から選ばれた人しか乗れないんだという印象が光稀さんへのLOVEを一層強くしているような。。。(笑)

とそんな脱線は置いておいて。

本編では、空中にいるとあるイキモノ―個体として1つ、しかも世代交代すらしてないすっごーい長寿―と人間との未知との遭遇を背景に、人間という集団を描き出している―気がする。気がするのは、たぶん、本作も小説だから、SFチックな面白い本で終わらせていい気もする、という気持ちがあるから。

本作では、分裂した謎のイキモノの大きいほうとは政府交えておとなな人間との交友、小さいほうはこどもな人間との交友がストリー進行上平行する。個々のアプローチは、結構おとなは論理的に、こどもは感情的に交友を深めるという点で対照的。夕貴が興味を持ったのは、おとな陣営の交流―謎のイキモノが知識はあるが、それを体系的に(人間的に)理解できていないというポジショニングにすることで、あえて人間の集団としての思考のありようを第三者(=謎のイキモノ)に説明するために、自らの言葉で噛み砕くというシーンが登場する。

その様子をみると、人間てなんて不器用な生き物なんだと思いたくなる。途中でありがちな政府の先走りとか、謎のイキモノに対する反対運動とか、妙に人間の在り方としてリアルで事象が戦争で下とかではなく未知との遭遇な分だけ、夕貴の中では目立った。

それから、本編最後に、仁淀の神様という短編が入っているのだが、これがもう、泣かせる泣かせる。こういうのありかぁ~!!!っていうくらい。(笑)でもこの感動の加減は本編読んでないと出てこないという。。。何とも憎たらしい作り。

お空が好きな人は結構好きになれるんじゃないかなと思う逸品です。