ザ・クリエイター/創造者

THE CREATOR

 

〔勝手に評価 = ★★★★ = 真面目なあまり…〕

 

2023年/アメリカ映画/133分/監督・原案:ギャレス・エドワーズ/製作:ギャレス・エドワーズ、キリ・ハート、ジム・スペンサー、アーノン・ミルチャン/脚本:ギャレス・エドワーズ、クリス・ワイツ/撮影:グレイグ・フレイザー、オーレン・ソファー/出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ジェンマ・チャン、渡辺謙、スタージル・シンプソン、マデリン・ユナ・ヴォイルズ、アリソン・ジャネイ ほか

 

【気ままに感想】

 

ストイックな作品です。

SFですし、アクションですので、どのようにでも味付けができたと思いますが、本作は見事に脱線をせずにお話を描き切ります。

とんだ大逆転やビックリ設定が飛び出したりもしないし、主人公が闇に落ちていったりすることもありません。敵は反省もしないままに滅んでいきます。

勧善懲悪のすっきり感も与えませんし、ハッピーエンドは…本当にハッピーなのか??

ストイックに語りかけてきます。

実際には、つじつまが合わない点やどうしてそうなるのか??不可解な部分は結構あるし、伏線もきちんと回収できていないのですが(例えば、本作のメインキャラAIの“アルフィー”は主人公の娘のコピーだったのか?どうしてあの場所にヒロインを模したAIがあったのか?などなど、結構大事な部分がおかしかったりする…。渡辺謙も1体だけじゃないのかな?となると…)、

そんな疑問や強引な展開が気にならないくらい、真面目さがオーラのように作品を包んでいます。

また、ストーリーの点からも、基本的にアメリカが一方的にアジアの国々を攻めている、これまたアメリカのクリエイタのトラウマみたいな、ベトナム戦争(を始めとするアメリカの介入戦争)メタファー作品なので、ほぼ不条理な戦いのシーンの連続で、攻撃に晒されるアジアの人々(とAI)は善良に、攻撃を加えるアメリカ軍は非情に…徹底して描かれています。

この点は、見事にステレオタイプ。

真面目な作品過ぎて、かえって物足りなさを感じたり、物語の骨格自体がステレオタイプなために、イマイチ高評価につながっていないのではないか??

本国のアカデミー賞でも「視覚効果賞」と「音響賞」にノミネートされただけで、作品の内容に関する賞からはすっかりこぼれ落ちてしまいました。

あるいは、下記の通り、登場人物を人種で描き分けているステレオタイプさが、白人中心世界の映画界で敬遠されたかもしれません。

 

そこで、ステレオタイプさ、という点で最も気になって仕方ないのは、なぜ、アジア?有色人種?

という点です。

そして、アメリカ側は白人。

おまけに、AIの脅威。

中国や北朝鮮などからの核の脅威は、今のところキューバ危機ほどのヒステリックさを与えてはいないでしょうが、『ターミネーター(1984)』以来の判で押したような近未来核戦争作品。

AI技術をもってアメリカに脅威を与え、アメリカに核を落とすのはアジアのどこか…です(現実はアジアに核を落としたアメリカが核戦争の唯一無二なのに)。

アメリカに対抗するアジア人(とAI)は、殺しても殺しても湧出るように現れる、ベトナム兵のメタファ。

主人公役のジョン・デヴィッド・ワシントンはもちろん黒人の俳優さんですし、本作の実際の主役と言ってよい『AIアルフィー』を演じたマデリン・ユナ・ヴォイルズちゃんは、東南アジア系のハーフ、ヒロインのジェンマ・チャンは香港系です。

渡辺謙も重要な役を演じていますが、片やAIに対してもアジア人に対しても非情な大佐役のアリソン・ジャネイ達アメリカ軍のメンバーはいかにもな従来型の“アメリカの人々”。

双方が情け容赦なく殺し合うシーンは、ベトナム戦争だけでなく、西部劇の白人対インデアンの姿にも重なり合います。

 

ホントウの意図はどこにあるのか、知る由もありませんが、AIと人類の在り方についての物語に、このようなステレオタイプなフレームをはめ込んでみせたギャレス・エドワーズ監督はじめ製作陣の姿勢は、ある意味ガチでアメリカ社会に対してもアジア世界に対しても喧嘩を売っているようにも見えます。

宙に浮かぶ巨大で、空の真上から超強力な破壊力を持つミサイルを地上の人々に叩きつける、そのビジュアルは、まるっきり『インディペンデンス・デイ(1996)』の円盤そのものの暴力的な様子です。

侵略者(AI)からの自由を守っていたはずのアメリカが、実際には独立を奪う侵略者であった、という構造は、ハリウッドのトレンドからは受け入れにくいものであった…ということでしょう。

 

そのような、物語や構造における矛盾や問題点を含みながら、また、大量殺人なアクション映画でありながら、崇高な雰囲気や姿勢を失わないのは、ギャレス・エドワーズ監督をはじめとする製作陣の生真面目さ…とともに、やはり、主人公を演じるジョン・デヴィッド・ワシントンとマデリン・ユナ・ヴォイルズちゃんの、真摯で可愛らしい演技によるもの、と言えます。

 

AIと人類が共存する近未来。

ある日、AIによってロサンゼルスに核が投下されて都市は壊滅。

AIの危険性を重視したアメリカは、AI利用を禁止。併せて、AIの流入とAIによる攻撃の恐怖を排除するため、他国のAI開発に対しても干渉をするようになります。

一方、ニューアジアでは、AIの生産、利用のみならず、AIを搭載した人造人間シュミラントとの共存を掲げ、人間とシュミラントはアメリカの不当な介入に対して共闘して抵抗をしています。

2065年。ニューアジアでAI開発技術者のマヤ(ジェンマ・チャン)と平和に暮らす脱走兵のジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)。マヤはジョシュアの子を宿していました。そんなある日、突然、アメリカの最終兵器空に浮かぶ巨大な飛行船『ノマド』からのミサイル攻撃によって二人が暮らすコミュニティは壊滅的な打撃を受け、マヤは大津波に飲まれてしまいます。

実は、脱走兵のふりをして潜入捜査をしていたジョシュアは、一命をとりとめたものの、身分もバレ、失意のうちに本国に帰還することとなりました。

そんな、ジョシュアのもとに再び出撃命令が出ます。

ニューアジアが、『ノマド』をも破壊することができる秘密兵器『アルファ・オー』を開発したことを掴んだアメリカ軍は『アルファ・オー』の破壊と開発者『ニルマータ』の拿捕を計画し、そのため敵地に詳しいジョシュアを参加させようとしたのです。

一度は拒否するジョシュアでしたが、マヤがまだ生きている、と聞かされ再びニューアジアへ。

ニューアジア人とシュミラントの激しい抵抗の中、巧みに潜入したジョシュアがたどり着いたのは『アルファ・オー』を格納する秘密の部屋。

その部屋に居たのは…一人の幼い女の子を姿をしたシュミラント。戸惑うジョシュアでしたが、シュミラントがマヤの居場所を知っていると知ると、命令に背き『アルフィー』と名付けたシュミラントとともに逃亡を開始します。

厳しい追手の中、ピンチに陥る二人を助けたのは…アルフィーの能力。アルフィーは、あらゆる人工物を無力化する能力を有していたのでした。

そして、二人の逃亡は…。

 

とにかく、ニューアジア人とシュミラントは見事なくらいにお人好しです。

ジョン・デヴィッド・ワシントンはどう見てもニューアジア人ではなくて、アメリカ人にしか見えない。どうして、そんな怪しい人(実際にスパイだし)を信用したのか???

邪悪なアメリカ軍に対して、何度も裏切られながら圧倒的な火力の差に抵抗もむなしく次々と倒されていきます。

ロボット…弱っ!!

そんな胡散臭い役を見事に?純朴な人として演じているジョン・デヴィッド・ワシントンはなかなか好演です。『TENETテネット(2020)』のときには、何を考えているのか分からない、まるっきり“胡散臭い人”にしか見えなかったジョン・デヴィッド・ワシントンですが、今回は愛する人や女の子(のシュミラント)のために身体を張る、やさしいおじさん(でも、立場はやはり胡散臭い)を好感度高く演じています。

もともといかついし、ビジュアルが暑苦しいのでちょっと苦手なイメージがあった(失礼!)のですが、次回作以降も期待!です。

それから、オーディションで選ばれた『アルフィー』マデリン・ユナ・ヴォイルズちゃんのビジュアルと可愛らしさにはビックリです。

渡辺謙もそうですが、本作に登場するシュミラントは、特に耳から後ろの頭部に機械が露出していて、その見た目や動きが見事に生身の役者と合成ができていて、「これで低予算映画??(もちろんハリウッド比較)」というビジュアル。

CG作成コストがどんどん下がっていく中で、丁寧に作り込めばここまでイメージを実現することができるのか…という良いお手本の本作。

マデリン・ユナ・ヴォイルズちゃんの愛おしいばかりの演技と丁寧なビジュアルを観たら…AIが(普通に)居る世界はそれほど悪いものではないか~という妙な納得感が起きてきます。

本作では、AIの少女(で、最終兵器)というかなり特別な役割だったので、今後の演技の幅がまだよくわかりませんが、マデリン・ユナ・ヴォイルズちゃんも色々な作品にチャレンジしながら大きくなっていってもらいたいですね!

 

★★★★★ 完璧!!生涯のベスト作品

★★★★  傑作!こいつは凄い

★★★   まあ楽しめました

★★    ヒマだけは潰せたネ

★     失敗した…時間を無駄にした

 

☆は0.5