リコリス・ピザ
LICORICE PIZZA PG12
〔勝手に評価 = ★★★★★ = ド直球のロマンス〕
2021年/アメリカ映画/134分/監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン/製作:サラ・マーフィ、ポール・トーマス・アンダーソン、アダム・ソムナー/撮影:マイケル・バウマン、ポール・トーマス・アンダーソン/出演:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペン、トム・ウエイツ、ブラッドリー・クーパー、ベニー・サフディ ほか
【気ままに感想】
まあ、ビックリの純粋な青春ラブ・ストーリー。ちょっと昔の日本の「ラブ・コメ」マンガと同じ路線。SEXなしの砂糖菓子映画。
とにかく、そのことが驚きです。
ポール・トーマス・アンダーソンが純愛もの???
でも…よく考えたら『インヒアレント・ヴァイス(2014)』もサイケ・ノアールな“探偵もの”の形をとったおっさんのラブ・ストーリー(純愛もの)だった…と思い出し、意外に?ポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTAと表記)って可愛らしいところがある。
デビュー作の『ブギーナイツ(1997)』もポルノ映画界、というちょっと大人な世界を舞台にした作品ではあるものの、内容は実に純粋な“ファミリードラマ”…というか“家族愛”についての映画だった(疑似だけど)。
本作は、15歳の高校生(PTAの盟友故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンがデビューして演じてます…親父によく似てる)と25歳のカメラ・アシスタント(こちらも、姉妹バンド『ハイム』のヴォーカル、末っ子アラナ・ハイムが映画デビュー)のロマンスもの。
『インヒアレント・ヴァイス』のような、感情移入しにくいウダウダと混とんとした作品だったらどうしよう…なんて、不安も頭をよぎったのですが、何とも、本作は直球勝負!
驚くほど、この2人の主人公カップルの純愛を描き切っています。まあ、もちろん、現代のアメリカ映画で15歳の子どもと25歳の“歳の差カップル”のべたべたの愛憎劇を描くわけにはいかないでしょうが、それにしても可愛らしい、愛すべき作品になっています。
PTAにとって、フィリップ・シーモア・ホフマンの息子は自分にとっても掛け替えのない存在でしょうから、そのデビュー作とすればおろそかにはできなかったでしょう。
もっとも、PTA作品ですから、ちょっと一筋縄ではないのは期待?通り。
こだわりが随所に表れています。
まず、第一には、もちん!1970年代への強い憧憬です。
PTAにとっては、70年代は外すことができない要素。まるで、70年代から時間が止まってしまい、そこから抜け出すことができない人になってしまっているのですが、本作においてもそれは同じ。
音楽や風俗が70年代のもの…というだけでは物足りない(満足できない人)。
ピンボールの規制条例の撤廃、オイルショック、ウォーターベッド…と、70年代を象徴するグッズや出来事をてんこ盛り。出てくるお店の数々も当時のもの。
1970年生まれのPTAにとっては、70年代は親しみのある時代であったとしても、リアルな感覚の経験は乏しいはず。
本作の主人公は15歳の少年ですが、本人はそれよりもさらに年下で、70年代を象徴する出来事として描かれている「オイルショック(第1次:1973年))」の記憶はないはず。
それでも描きたくなる衝動というのは、いったいどこから生まれてくるのでしょうかね?
面白い人です。
本作を鑑賞する上では全く何の支障もないのですが(w)、舞台となった場所はもちろんですが、出てくるお店やテレビ番組も当時の実際のものであったり、登場する人物もそれぞれモデルが居て、出来事は前述の「オイルショック」なども含めて当時の風物…特に70年代の西海岸のことが大好きな方が居られましたら、本作のパンフレットなどを買って映画の後にチェックするのも楽しいかも。
それから、PTAっぽい作品、らしさ、という点では、物語全体の流れよりもそれぞれのシーン、エピソードやカットを重視して、意外に全体のお話そのものは薄っぺらいところ。
高校生少年と25歳の女子の歳の差カップルって…出会いやお互いの心の高まり、葛藤など、出会ってから恋に落ちるまでにも色々とありそう…ですが、その辺は一切パス!!
高校での「イヤーブック」作成のための写真撮影に来ていた、カメラマン助手のアラナ・ハイムを一目見て、クーパー・ホフマンがナンパして即カップル出来上がり!!
始まってものの10分もしないうちに、その辺はおしまい…になってしまう、シンプルさ。
その後のエピソードも、熱心なユダヤ教徒のであるアラナ・ハイムの家族(実際の家族が総出で出演しています!)とユダヤ人なのに?無宗教主義のボーイ・フレンドとのエピソード、ウォーターベッドやピンボールの起業の話、ロサンゼルス市長選のことや市長候補(♂)の恋人(♂)のこと(ゲイカップルに優しい視線なのもPTAらしい)…などなど。
まるで、思い付きのように挿入されるのですが、それぞれの関係は…あまりない(WW)。
でも!!
そんな、詰め込んだエピソードの数々を通して、2人が気持ちを近づけたり離れたりしていく、可愛らしいくらいのロマンスの描き方には、さすが!!
と唸らざるを得ません。
ヘンな人?を微笑ましく描くPTAが、臆面もなく歌い上げた“ラブ・ストーリー”は、何だか観ている方も恥ずかしくなるくらい…なのですが、ラストは思わず涙腺が緩んでしまう…。
完全にやられた!!!!
もう、脱帽です。
ということで、お話は実にシンプル。
場所は、西海岸ハリウッド近郊。
写真撮影のために高校にやってきた、全く仕事にやる気なしのカメラ助手アラナ・ハイムの姿に一目ぼれをした、1年生クーパー・ホフマン。
10歳年下の男の子の誘いを冗談か子どものたわ言…くらいに受け止めるアラナ・ハイム。でも、結局はその日レストラン『テイル・オコック』でデートして知り合うことになります。
TV番組で、子役として活動していたクーパー・ホフマンは、NYでの仕事が入るのですが、PRコンサルタント業を営む母親(息子と共同経営)は仕事で同伴ができなくなりキャンセルのピンチ。何とかしてNYでの仕事に出演したいクーパー・ホフマンはアラナ・ハイムに頼んで保護者として同行してもらうことに。
そんなこんなで、何となく距離を近くする2人でしたが、何とアラナ・ハイムは帰ってきてからは、同じ番組に出演していた別の男の子とデートを。
その男の子を家に招待したアラナ・ハイムでしたが、敬虔なユダヤ教徒である家族は男の子を受け入れない。
一方、恋に仕事に、何にでも精力的で好奇心旺盛なクーパー・ホフマンは、街で見かけたウォーターベッドに目をつけて、友達と一緒にウォーターベッド販売を始めようと、手始めに少年少女向けのビジネス展示会イベント『ティーンエイジ・フェア』に出展するのですが、突然警察官に拘束されてしまう。
その場に居合わせたアラナ・ハイムは、思わずクーパー・ホフマンを助けようと、警察署に向けて走り出しますが…。
クーパー・ホフマンが演じる、主人公の15歳の高校生は、実在の映画プロデューサー、ゲイリー・ゴーツマン(『羊たちの沈黙(1990)』『マンマ・ミーア(2008)』など)をモデルにしている…というかゲイリー・ゴーツマンの経験したエピソードをパクっている。
元々子役の俳優で、そのマネージャ兼ステージママは、息子の稼ぎを元手にPR会社を運営。
主人公はその会社の共同経営者で、すでにビジネスをやっている、若き実業家。その後に、ウォーターベッドの販売やピンボール店の経営など、新しいビジネスに取り組んでいく姿って、アメリカの若者の逞しさを表していて、やっぱり感心する。
本作の主人公が一般的ではないかもしれませんが、アメリカの子って昔からアグレッシブだったのですね。
もちろん、本作がデビュー作となるクーパー・ホフマンくんもこれからの活躍が期待される俳優となるでしょう。
お父さんに似てポッチャリ体型のクーパー・ホフマンくんはイケメン俳優…という感じではありませんが、デビュー作とは思えないほど体格も演技も堂々としていて、とても17歳とは思えない(w)。
ヒロインを演じるアラナ・ハイムも映画初出演、ということですが、2007年から活動をしている姉妹バンドのメンバーで、2013年にはグラミー賞最優秀新人賞にノミネートされたこともある(2020年には最優秀アルバム賞にも)、ということですからまだ若いけれど、ショウビズでの経験は十分。
スゴイ美人…というわけではなく、時代設定のせいもあって、ちょっとダサいお姉さんですが、じーっと観ていると何だか可愛らしく見える瞬間がチラホラとあって、何だか飽きがこないキャラ。
これからも活動の主軸は音楽シーンなのかもしれませんが、これを機会に俳優業もたまにはやってもイイのではないでしょうか。
ショーン・ペンをはじめ、経験や個性が豊かな俳優さんも入れ替わり出てくるのですが、何と言っても本作は、この2人の主人公カップルのキャラクタのおかげで成功!しました。
2人ともあっぱれ!!
★★★★★ 完璧!!生涯のベスト作品
★★★★ 傑作!こいつは凄い
★★★ まあ楽しめました
★★ ヒマだけは潰せたネ
★ 失敗した…時間を無駄にした
☆は0.5