ラストナイト・イン・ソーホー

LAST NIGHT IN SOHO  (R15+)

 

〔勝手に評価 = ★★★★ = もう一捻り!〕

 

2021年/イギリス映画/118分/監督・原案:エドガー・ライト/製作:ニラ・パーク、ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、エドガー・ライト/脚本:エドガー・ライト、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ/撮影:チョン・ジョンフン/出演:トーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイ、マット・スミス、テレンス・スタンプ、マイケル・アジャオ、ダイアナ・リグ、シノーヴ・カールセン、リタ・トゥシンハム、ジェシ-・メイ・リー、カシウス・ネルソン ほか

 

【気ままに感想】

 

ゾンビ物のパロディ(というか品質的にはパスティーシュと言ってもよいかも?)の傑作『ショーン・オブ・ザ・デッド(2004)』で強烈な印象を残し、その後は『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-(2007)』や『ベイビー・ドライバー(2017)』などでサスペンスとしてもひねりが利いた作品を作ってきたエドガー・ライトが、満を持して?ホラー・サスペンスに挑んだ本作。

期待に違わず、しっかりと魅せてくれたのですが…。

ちょっと物足りない?

 

あらためて考えてみると、本作に限らず最近のサスペンス物って、何だかストレートでビックリ・ドッキリ度合いが大味な気がする。

古いサスペンス映画やホラー映画って、「これでもか!」っていうくらい“謎解き”や“伏線”“場面転換”“意外な犯人”などなどのネタが詰め込まれていて、途中から収拾がつかなくなってしまうのは当たり前、物語が破綻してしまっても「面白ければそれでよし!」みたいなごった煮で突拍子の無さがあったような気がする。

「それはないよね~!」みたいなツッコミもおかまいなし、途中で話があっちこっちに行ってしまって「あれはいったいどうなったの?説明なしで終わったよ??」回収されなかったネタもあったりしていた…ように思います。

 

それが、今ではいわゆる大作になると投資も大きくなってしまうので無茶ができない。

NETを検索してみると『ショーン・オブ・ザ・デッド』で製作費600万ドルに対して本作は4300万ドルも予算かかっているとなると、おいそれと失敗は許されない。なかなか冒険はできませんね。

何が言いたいのかというと…

ここからはネタバレすれすれになりますので(カンの良い方は)ご注意ですが、

本作では、大きな謎解きネタが3つ(だけ?)あるのですが、まずはじめは、主人公の1人アニャ・テイラー=ジョイが愛した男が実は女の子を毒牙にかける、古い時代で言えば女衒のような人物だった(今風で言えば(風俗の)スカウト…ですかね?)、というネタ。このネタが明らかになった時点で、本作のトーンがロマンティックなものからホラーへとガラッと転換していく…のですが、まあ、この辺はまだ驚くには及ばない。

次のネタは、「あの人がこの人だったの??」ネタですが、実は本作の一番重要なネタ…というか大取のオチが…実は同じ構造。

つまり、ネタの2番目と最後の謎解きネタが同じパターンになってしまっているのです。

確かに、「まあ、よく考えたね~」という程度にはビックリするのですが、さすがに同じパターンを2回繰り返されたのでは…驚きもそこそこになっちゃう。もっと伏線があったらまだよかったのですが、いずれも唐突に判明するし、ちょっと盛り上がらなかった。

よくできてはいるのだけどね~…たぶん、イマイチ変化が足りなかったところが本作の好き嫌いがはっきりする点ではないでしょうか。

本来、筋金入りの映画や音楽オタクのエドガー・ライトですから、もっと冒険できたはずなのですが…次回は、予算規模や業界への忖度を度外視して思う存分やっていただければ!と思います。

 

ファッションに関心が高い田舎の高校生?エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)はロンドンにあるデザインの学校に合格し進学する。

学校の寮に入ったエロイーズたけど、同室になった一年先輩のジョカスタ(シノーヴ・カールセン)やその取り巻きの新入生からは田舎者扱いをされるし、みんなで繰り出したロンドンの夜の街には馴染めないし、平気で部屋に男を連れ込むジョカスタの行動にはついていけないし…。

花の都ロンドンでの寮生活は意外につらい。

2日で嫌になったエロイーズは学校の掲示板にあった古いアパートメントの一室を間借りすることする。

オーナーは80代の一人暮らしのおばあちゃん(ダイアナ・リグ)。エロイーズはすぐに屋根裏部屋に住むことになるが、屋根裏部屋と言っても立派なベッドもバスルームもついてる。

その夜、大きなベッドに寝転がってシーツにくるまったところ…まあ、不思議!

エロイーズは現代ではなく60年代のロンドンの部屋の中に。鏡に映る自分はブロンドのコケティッシュな女性の姿に。アレクサンドラ(アニャ・テイラー=ジョイ)と名乗るその女の子はロンドンのショービズにあこがれて歌手になることを目指している。

ナイトクラブに飛び込んで行くアレクサンドラ=サンディ。クラブの女の子を取りまとめているというジャック(マット・スミス)に見初められたサンディは恋に落ち、クラブでの仕事も手に入れる…。

で、気がつくと朝。

エロイーズは、サンディのファッションを参考にして課題のデザインを作ったり、自分もブロンドの60年代スタイルをしたりして教室でもウケて、どんくさい田舎者のイメージを一新!ボーイフレンドもできたりする。

実は、エロイーズには特殊な能力があって、死んだ人(代表はお母さん)の姿を見たりすることができる。…のだけれど、その能力はどんどん“幅広”になって、サンディのビジョンを見るだけでなく、過去のロンドンの街だろうが、過去の人だろうが、幽霊だろうが、もう、何だって見えるようになっちゃう(ただし、60年代限定)。

何で?いったいどういう能力?とか思ってもいけません。

そういう“便利な”能力なのです。

ウキウキのエロイーズだったのですが、ある時から夢の雰囲気が一転してしまいます。

歌手を目指していたはずのサンディなのに、ナイトクラブのショーではエッチな恰好で踊らされるし、スケベな客の相手もさせられる。ついには、ジャックに売春までさせられて、そんな悲惨なサンディの姿にエロイーズはすっかり混乱してしまいます。

そして、ある夜、ジャックに殺されるサンディのビジョンを見て、エロイーズは極度のパニックに陥るのですが…。

 

エドガー・ライトはとことん60年代のロンドンの風俗を楽し気に再現しています。

もともとエドガー・ライトの作品、といえば、音楽とパブ(酒と飲んだくれ)は必需品ですから、それにファッションとダンスが加わって、作品全体の雰囲気はもう“ノリノリ(死語)”です。

おそらく、エドガー・ライトの趣味全開でこれでもか!というくらいに好きなアイテムをてんこ盛りにした作品で、俗悪な大人の雰囲気も満点。

そんな大人の世界に入り込んでいく二人の女の子の姿を描く、典型的な“通過儀礼”映画です。

ですから、本作はホラー作品というにはちょっと立ち位置がズレている(意識的に)。

幽霊(エロイーズが自分の能力で見ることができるビジョン)が沢山出て来たり、殺人や人が事故死するシーンが繰り返されたり、ショッキングな映像が結構あるものの、あまり怖くありません。

本作でもっとも恐いもの…として描かれるのは、実は“大人の世界”です。

“大人の世界”に飲み込まれてしまった女の子が2人。

サンディは自ら飛び込んで行ったものの、うまく泳ぎ切ることができずに“身を滅ぼして”しまう。

では、エロイーズは?

彼女は最後には“ロンドン=大人の世界”を自分の世界にすることができるのか??

当然?ですが、エドガー・ライトは映画オタクなので色々な映画シーンを参考に、実に見事なビジュアルを見せてくれます。

オチに触れられないのが残念ですが、ちょっと考えさせる作品にもなっていて、なかなかの佳作です。

あまり怖くないのが玉に瑕ですが。

 

本作の成功を決定づけたのは、主役を演じた2人の女の子!…と断定できます。

とにかく2人が可愛らしい。

サンディのビジュアルは大先輩のオタク監督、ロマン・ポランスキーの作品に登場するフランスの大女優が演じたキャラクタを参考にしていますが、その往年の大女優に負けないくらい演じているアニャ・テイラー=ジョイがとてもキッチュで可愛らしい。

60年代というと半世紀以上も前になるけど、その頃のファッションって女性が自己主張しつついわゆる“女らしさ”を強調していたのでしょうか。「ウーマン・リブ」運動のちょっと前くらい。

アニャ・テイラー=ジョイが演じているサンディは、そんな女性が自己主張を積極的にしはじめた時代の若者らしく、元気で意思が強そうなキャラですが、活き活きと演じています。

一方のエロイーズを演じるトーマシン・マッケンジーも、最初は田舎のダサい女の子がサンディに影響され、ロンドンの街にも慣れていくにつれてどんどん可愛らしく、カッコよくなっていく、そんな女の子の変化をキッチリ演じていました。

この2人の女優さんは今後要注目です。

 

★★★★★ 完璧!!生涯のベスト作品

★★★★  傑作!こいつは凄い

★★★   まあ楽しめました

★★    ヒマだけは潰せたネ

★     失敗した…時間を無駄にした

 

☆は0.5