エジソンズ・ゲーム

THE CURRENT WAR

 

〔勝手に評価 = ★★☆ = アメリカンビジネスはどっち?〕

 

2019年/アメリカ映画/108分/監督:アフフォンソ・ゴメス=レホン/製作:ティムール・ベクマンベトフ、ベイジル・イヴァニク/脚本:マイケル・ミトニック/撮影:チョン・ジョンフン/出演:ベネディクト・カンバーバッチ、マイケル・シャノン、ニコラス・ホルト、トム・ホランド、キャサリン・ウォーターストン、タペンス・ミドルトン、スタンリー・タウンゼント、マシュー・マクファディン ほか

 

【気ままに感想】

 

電力送電網を整備するのに、直流電源で送電するか、三層交流で送電するか?

アメリカ市場を制するのはどっちか??

およそ150年も前に起きた『電流戦争』と呼ばれるビジネス戦争を描いた作品です。

現在の電力供給はダムによる水力発電、天然ガスや石炭などによる火力発電そして原子力発電、いずれも主力の電力は大規模発電所で発電した高圧の電気を三層交流方式で変電所などを経由しながら、極めて広大な地域に対して隅々まで血管のように電線を張り巡らせる巨大なシステムで送っている。生活や産業に不可欠なほとんどの品物が電力なしでは使えない現代社会を考えてみると、強力な電力供給インフラが不可欠なのは当然と言えば当然で、本作で言えば、設備投資も過大となる低圧の直流方式による電力供給網を広めようとしたエジソンの野望は破れて当然のような気もします。

今では、インバータが開発されて大規模長距離送電には直流送電も用いられていますが、その技術が実用化したのはごく近年のこと。経済的にも技術的にも必然だったのかもしれません。

ですが、もし低圧直流電源での送電が基本的なインフラとなっていたら…。

こんなに豊かな社会は訪れなかったかもしれません。いや、あるいは、現在社会でこそ注目されている、再生可能エネルギー(多くが小さな出力で直流電源)がもっと早くに開発普及されていて、温室効果ガスによる地球温暖化問題はなかったのかも…。

なんていうのは妄想でしょうか?

 

ところで、さらに興味深いのは、この電流争いは現在のビジネス戦争で最も熾烈なインフラ規格に関するものである、ということ。

いわば、Windowsとアップルの争い…という例に近い。あるいは、アンドロイドとiOSのシェア争い…では両者は併存してはいますが、電力の送電方式であればかなり排他的になるので、より過激な競争になるでしょう。

本作では、エジソンが「交流電源は危険だ、人を殺す」と散々メディアを活用してネガティブキャンペーンを張って、馬などの家畜を交流電源で感電死させてみたり、死刑囚の執行に交流電源による電気椅子を使うように仕向けてその残虐性をアピールしたりして、世論を味方につけようと奮闘します。

その姿はまるで何かに憑りつかれたかのような描写です。

この「交流電源は危険だ」というキャンペーンについてですが、確かに高圧電源は危険でしょうが、それは交流だろうが直流だろうが大差はない。比較をすれば交流の方が直流よりも危険、というのは事実であったとしても、感電には通電時間、皮膚の乾燥状態など諸条件があるので、一概には言えないとも言われています。

 

むしろ興味深いのは、本作で執拗に交流送電を非難するエジソンの様子が、まるで「民主党陣営を非難するトランプ大統領」の姿に重なるところです。

本作は2019年制作…となっていますが、実際には2017年には一応完成していて、その後ディレクターカットによって現在の内容となったようです。そうであれば、トランプ大統領誕生前にエジソン(ベネディクト・カンバーバッチ)の描写内容は決まっていたでしょうから、直接的にトランプ大統領を意識したわけではないでしょう。

にもかかわらず、デジャブのようなシーンが続くのは、トランプ大統領が実業家でもあることを鑑みると、アメリカのビジネスシーンでの競争のスタイルがそのような風潮にある、ということでしょうか?

あらためて考えてみると、スティーブ・ジョブズなどビジネス界のスーパースターって、大仰なプレゼンでメディアを扇動してファン(それ以上に投資家)を獲得してきた…エジソンをそんな風に描いた本作は、まさにかつての電流戦争を題材にしながらも、実は近年のGAFAといった巨大グローバル企業がのし上がっていく様やプラットフォーム企業の熾烈な競争の様子を風刺的に描こうとした作品と言えます。

 

1880年代のアメリカ。長寿命の白熱電球を開発したトーマス・エジソンは、J・Pモルガン(マシュー・マクファディン)の出資を受けて『エジソン・ゼネラル・エレクトリック社(現:ゼネラル・エレクトリック=GE)』を設立し、直流送電による電力供給事業を立ち上げ、国内の各都市に売込みを図っていた。

一方、機関車のエアブレーキシステムの開発で財を成したジョージ・ウェスティングハウス(マイケル・シャノン)は、効率が悪く設備投資が過大となる直流送電ではなく、将来的には交流送電を普及させるべきであるとして、技術士のフランクリン・ホープ(スタンリー・タウンゼント)とともに交流送電事業に取り組む。

ウェスティングハウスはエジソンの協力を求めるが、直流送電にこだわるエジソンは聞く耳を持たず、かえって激しく対立をしてくる。

そんなある日、若く貧しい科学者ニコラ・テスラ(ニコラス・ホルト)がエジソンの会社に職を求めてくる。テスラは交流送電を提案し、エジソンは交流で工場を稼働させたら「5万ドル」を支払う、と勢いで言ったものの、それを成功させたテスラに対して「あれは冗談だ」と言い放つ。直流送電にこだわり、自分の技術力を評価しないエジソンに失望したテスラはエジソンの元を離れる。

ウェスティングハウスの会社と激しいシェア競争を繰り広げるエジソンは、交流電源は危険だ、というキャンペーンを張る。メディアを集めて馬の殺処分に交流電源を用いたデモンストレーションを行うが、このデモンストレーションが効果的であるとわかると、豚などの家畜に対しても次々とやってみせて、世間を扇動する。

それでもエジソンとの連携を考えて抗議をしないウェスティングハウスに対して、ホープは呆れた様子もみせるが、ある日ホープは交流エンジンの調整作業中に感電死してしまう。

ホープの死によって交流送電が危険、という風潮がさらに高まったうえに貴重な技術者の支えを失ったウェスティングハウスは途方に暮れる。だがそこに、エジソンの元を離れたものの自らの交流送電理論を完成させたテスラがウェスティングハウスの事業に参加することになって…。

 

終始攻撃的なエジソンに対して最後まで融和を図ろうとするウェスティングハウス、という対比を際立たせつつ、ついにはウェスティングハウス=交流送電が電流戦争を制する、というラスト(シカゴ万国博覧会の電力供給を交流送電が勝ち取るエピソード)で締めくくる本作は、現代の経済戦争に対して鋭い批判となっています。

ただ、エジソンも単に偏屈で攻撃的な人物、という訳ではなく家族愛があって人間的な魅力もある、という設定は、ビジネスの場面とそれ以外では人間は人格が変わる…人間は良い面と悪い面の両方を併せ持つ生き物である、というメッセージよりも、むしろ、普段は良い人間もついビジネス戦争の中では道を誤ることもあるし、ときには進んで汚い手を使って他人を陥れようとすることが起きる、ビジネスは人を狂わす…という批判になっている。

『発明王』として偉人であるエジソン、しかも人気のベネディクト・カンバーバッチを真っ黒な人間として描くのは難しかっただけかもしれませんが、結果的には複雑な人間の本性が本作のテーマになったように思えます。

 

その反面、勧善懲悪でないストーリーのため、何ともスッキリ感がない作品にもなっています。

実際のビジネス戦争でも、えげつないことがあってもビジネスマン全てが腹黒いわけではないし、ビジネスマンである限りは誰もが大小の争いに巻き込まれて自ら手を汚す可能性もある…のですが、それをきっちり描こうとすると何ともモヤモヤしたものになってしまう。

マイケル・シャノン演じるウェスティングハウスはあくまでも平和主義的で善人として描かれていますが、ベネディクト・カンバーバッチのエジソンが複雑な人物なだけに、かえって不自然なキャラクタに見えてしまう。

実際はどうだったのでしょうか?ウェスティングハウスが良心的な人物であったとしてもビジネスの場面では鬼になることも多々あったでしょうから、かえって何となく魅力的に感じないキャラクタになったのも致し方ない。

この手のビジネス世界を描いた作品をすっきりわかりやすい物語にまとめる…というのも難しいようですね~。あらためて感じたのが一番の収穫でしょう。

 

★★★★★ 完璧!!生涯のベスト作品

★★★★  傑作!こいつは凄い

★★★   まあ楽しめました

★★    ヒマだけは潰せたネ

    失敗した…時間を無駄にした

 

☆は0.5