カメラを止めるな!

ONE CUT OF THE DEAD

 

〔勝手に評価 = ★★★★ = アイデアが素晴らしい!〕

 

2018年/日本映画/96分/監督・脚本・編集:上田慎一郎/プロデューサー:市橋浩治/撮影:曽根剛/特殊メイク・特殊造形:下畑和秀/出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長尾和彰、細井学、市原洋、山崎俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、吉田美紀、合田純奈、浅森咲希奈、秋山ゆずき ほか

 

【気ままに感想】

 

インディーズ系の作品ながら、様々な賞をとって注目を浴び、改めて全国公開されて大うけした、シンデレラ映画です。

公開当時はスルーしていたので、いまさらながらNET視聴。

とはいうものの、本作にあっては、劇場でだけでなく、TV画面やタブレットでの鑑賞もなかなか雰囲気にマッチしている。

未見の方はぜひその意味を確かめてみてください()

 

何とも映画愛に満ちた作品です。

“映画”にこだわらず、ドラマ作品全体に対する“愛”かもしれません。少なくとも、制作する人、演じる人、それぞれの立場とそれぞれの役割にリスペクトした作品です。

しかも、“他にない”ジャンルを作った作品です。

現在の映画作品が、過去の作品のバリエーションとなっているこの時代にあって、新しい要素を“発見”すること自体がとても貴重で評価できることであるといえます。

その意味でも、この本作はかなり良くできた映画です!

そのアイデアは、映画の構造そのものでありかつ本作の核心的な要素であるので、説明してしまうとモロ“ネタばれ”になってしまうので、詳しく語ることはできませんが(この点は他作品と違って、とにかく見てください!というしかない)、すごく秀逸です。

 

ちょっとだけ触れると、本作は劇の中に劇が挿入されて別の劇が展開するいわゆる「劇中劇」のバリエーションです。「劇中劇」はこのように「入れ子構造」になっているのですが、その「入れ子構造」が単純な形ではなく輻輳しているところがミソになっています。

アイデアそのものは何度も使えるものではないので()、類似品が沢山後追いしてブームになる…という展開はちょっと想像しにくいですが、立派に新しいスタイルになっています。

しかし、このアイデア(物語の構造)だけでは本作はこれほどの傑作にはならなかった。

 

もう1点、スゴイ!!ところが、本作は英語の題名のとおり「ワンカット」で撮られている、という点です。

最近のワンカット作品で記憶に新しいのは『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(2014)』が思い起されるのですが、これは高度な画像技術を駆使してあたかも全編をワンカットとして見せているものです(そのこと自体もスゴイし評価も高いのですが)。本当に実際にワンカットで撮ってしまった!作品にはドイツのサスペンス映画『ヴィクトリア(2015)』(上映時間140分!)があります(残念ながら未見)。

1回に撮れる時間に制約があったフィルムで撮る時代からデジタル撮影になって、このような冒険的な作品もたまに出てくるようになっているようです。

本作もワンカットで40分近いドラマを撮りあげています。

まるで舞台演劇を見ているような気になってくるのですが、ワンカットともなると、アドリブも多くなるし、思わぬトラブルも発生する。そんな難しいところを“微妙に”切り抜けていく演出に、喝采を送りたくなる。

出ている役者さんは多くが舞台を中心に活動している方ばかりのようで、映画はほとんど出たことがない人たち。逆に舞台での一発勝負の演技をしてきたからでしょうか、一気に見せる「ワンカット」ではなかなかに底力を見せてくれます。

舞台俳優中心、という先入観がなせるのかもしれませんが、若干オーバー演技(もっとも「ゾンビもの」ということでワザとらしさは緩和されますが())が鼻につく気がしますが、見事な作品となっています。

一見の価値あり!!

 

物語は、低予算のゾンビ映画を撮影しているクルーが、ゾンビ化してしまった彼氏に襲われるヒロインのシーンを撮っているところから始まる。

場所は、廃止された工場、あるいは排水などの処理場のような、すっかり荒れ果てたコンクリの建物の中です。

たった1つのシーンにもうすでに42テイクも取り直しをしている。

ハイテンションで役者に迫る監督にも、臭い演技しかできないヒロイン役の女優にも、みんなウンザリ。

ちょっと休んで気持ちを入れ替えようと、俳優、スタッフ一同が休んでいると、仲間の様子がなんだかおかしい。怪しい人影も見え隠れして…。

メイクなどで見かけはもともとゾンビなのですが、なんだかかなりリアルなゾンビの様子になっていく人々。

実は、廃工場のように見えた撮影現場は、かつて旧日本帝国軍が何やら細胞レベルで変化を起こす人体実験をしていた場所だった!

そんなこととはつゆ知らずに撮影をしていたクルーに襲い掛かるゾンビたち(含む仲間の感染者)。

クルーの運命は??そして、ゾンビ映画は???

 

あまり映画作品には出ていない役者さんばかりなのですが、皆さん個性的に演技をしていて俳優を観る、という点でも悪くない作品になっています。よく知らない人ばかりが出てくる、ということが劇中劇たる低予算のゾンビ映画、にもぴったりの雰囲気()

また、この作品ではそれぞれのキャラクタが最初と最後で全く違うイメージの演技をする、ということになるのですが、そのコントラストも見事に演じておられます。

このキャラクタの使い分け…というのも舞台俳優ならではの強みかもしれません。

特に、本作のある意味?主役の監督役をしている濱津隆之さんは、可笑しみのある絶妙な演技で中年の悲哀を醸し出していて、貴重なオジサン俳優になるのではないか??

ぜひ、今後は映画のお仕事もしていただければ、日本映画にも結構貢献なさるのではないでしょうか。

 

★★★★★ 完璧!!生涯のベスト作品

★★★★  傑作!こいつは凄い

★★★   まあ楽しめました

★★    ヒマだけは潰せたネ

    失敗した…時間を無駄にした

 

☆は0.5