前週の続きとなります。
ロシュフコーの死について詳細に語られているのに加え、この死によって、
娘の健康問題がさらにセヴィニエ夫人の心に重くのしかかっていることを
吐露しています。
(前回続き)
大抵の場合、私はラファイエット夫人と一緒にいます。夫人が (この件で)
それまど苦しんでいないのだとしたら、彼女は友情の喜びを知らず、優しい
心を持ち合わせていないことになるでしょう。私はこの手紙を夜の九時に夫
人宅から送ります。夫人は貴女からの言付けを読みました。夫人の頭から苦
悩が離れることはありませんが、手紙に目を通す気力は残っています。
ロシュフコーさんの容態は変わりません。英国人医師は足のむくみを気に
していますが、全ては自分の治療で克服できると信じています。その通りで
あるなら、彼が善の心を持ち合わせいて、患者を殺したり、ばらばらに引き
裂いたり、葬り去ったりしない人間であると知って、私は驚くことになるで
しょう。というのも、彼らは全く無能で、彼らが患者の熱を下げようとすれ
ば、患者の息の根を止めてそうするでしょう。デュシェンさんは過剰な心配
はしていませんが、他の者は憤慨しています。
1680年 1月 17日 (日) パリにて、娘フランソワーズへ
この手紙を出すのは水曜になると思いますが、貴女にお知らせしたいこと
があり、今日の内に書かずにはいられません。昨晩、ロシュフコーさんが亡
くなられました。今、私はこの不幸で頭が一杯です。友人たちも悲嘆に暮れ
ています。土曜日の昨日、英国人医師の治療は奇跡を起こしました。前の手
紙に書いた私の期待はさらに膨らみ、私たちは勝利の賛美歌を唄いました。
ロシュフコーさんの呼吸は楽になり、意識もはっきりして、熱も下がりまし
た。問題無く体を動かすこともできました。そのような状態であったのに、
昨日の六時に容態が急変しました。熱は倍にもなり、窒息し、譫妄状態に陥
りました。ひとことで言えば、痛風の発作に不意を突かれ、身体壮健で血流
も正常であったにも関わらず、わずか数時間でロシュフコーさんはこの世を
去りました。真夜中、コンドン氏に看取られながら、息を引き取りました。
マルシラックさんは一時たりとも傍を離れようとはしませんでした。ロシュ
フコーさんは息子の腕に抱かれ、貴女もよく知っているあの椅子の上で、雄々
しくも神の愛を説きながら亡くなったのです。マルシラックさんの悲しみは
如何ばかりでしょう。しかし、彼には国王陛下と宮廷があり、ご自分の家族
があります。しかし、ラファイエット夫人はどこであのような友人を見つけ
ればいいのでしょうか、どこにあのような交友が、あのような優しさが、楽し
しさが、信頼が、思い遣りが、夫人とその子供たちに残されているのでしょう。
夫人はすっかり憔悴して、部屋に閉じこもったまま、出てくることができま
せん。ロシュフコーさんも衰弱していましたので、二人はお互いを必要としていま
した。信頼と美しい友情において、この二人の関係に匹敵するものはありません。
考えてみてください。時も癒やすことができない喪失感を抱えていくことが
どのようなものか。私はずっと夫人に付き添っています。夫人は大家族に囲
まれることもできず、誰かが慰める必要があるのです。クーランジュ夫人も
よくしてくださいますが、暫くは私たちが自分の感情を押さえてでも、付き
添っていこうと思います。私たちの感情もまた憂愁に沈んでしまいそうでは
ありますが。
貴女からの素敵なお便りと、もう一通、マルシラック氏からの最初のお便
りへの返信が届いたのは、ちょうどそのような出来事のさなかでした。何と
いう巡り合わせでしょうか。
(中略)
私の心は重く沈んでいます。これまで以上に涙ながらに伏して、貴女にお
願いしたいのは、ルヴィエールさんが貴女に勧めている治療を退けないでい
ただきたいということです。それなしで貴女が良くなることはあり得ません。
貴女は治療法について知るだけで満足して、それを何かの時のためにとって
おこう、別の箱にしまっておこうとお考えです。しかし、血色は悪いまま、
胸の痛みも収まっていないではありませんか。それでも貴女は治療について
知るだけで満足し、薬を服用しようとはしません。それを試してみようと思
った時には、きっと手遅れになっていることでしょう。なぜ貴女はいつまで
も私を苦しませるのでしょうか。良くなることが怖いのですか? ルヴィエ
ールさんやグリニャン氏は、貴女にとって何の意味も無いのでしょうか。