【読書案内 9】歴史の謎に挑む!「鉄・仮・面 歴史に封印された男」を読む | アルプスの谷 1641

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1641年、マレドという街で何が起こり、その事件に関係した人々が、その後、どのような運命を辿ったのか。-その記録

 

 
 
 本編でも書いた「仮面の男」ですが、その正体は 「ユスターシュ・ドージェ
 
で、仮面で顔を隠して生涯監獄に閉じ込められた理由は、彼がルイ十四世の
 
異母兄弟であるから」 という説は、私は少なくとも三冊の本で読んだことが
 
あります。 一冊はあまり重要ではないので割愛しますが、一冊はコリン・
 
ウィルソンの本、そして残りの一冊が今回ご紹介する
 
 
「鉄・仮・面 歴史に封印された男」(ハリー・トンプソン著 1989年刊) です。
 
  鉄・仮・面―歴史に封印された男
 
 本は 「仮面の男」 の正体について、様々な説を取り上げ検証・反論を試み
 
ています。 そして、最後に辿り着くのが、男はルイ十四世とは異母兄弟の
 
ユスターシュ・ドージェであるという結論です。 この説は、男が仮面を付け
 
させられた理由、男が幽閉されるに至る事情まで、非常に納得のいく話だと
 
思ったので、小説のモチーフとして引用に近い形で使いました。
 
 実を言うと、仮面の男の正体探しは今もなお続いていて、ごく最近に新しい
 
研究が本となって刊行されています。 アメリカ人の歴史学者ポール・ソンニーノ
 
の「The Search for The Man in the Iron Mask(鉄仮面を探せ)」(2016年刊、
 
邦訳無し) がそれです。
 
 こちらについては未読なので、この本についてあれこれ言うのはフェアで
 
はありませんが、ウェブの紹介記事があるので読んでみると、見過ごしにで
 
きないことが書いてあるようです。
 
 
「仮面の男」の正体が遂に判明!  350年封印されたフランスの“鉄仮面伝説”の真相とは?
 
 
 この記事によると、ポール・ソンニーノは 「仮面の男ことユスターシュ・
 
ドージェの正体、それはなんと、ルイ14世による治世前期に宰相を務めたマザ
 
ラン枢機卿の出納官、すなわち会計係だった」 と結論しているというのです。
 
 マザランが死んだのが1661年、仮面の男が死んだのは 1703年であることを
 
考えると、年代的にも合わないように思われますし、そもそもなぜただの
 
会計係が顔を人に見られてはいけないのか、理解に苦しみます。 全く納得の
 
いかない話で、本当にそんなことが書いてあるのか、この記事を書いた人の
 
読み違えではないのか、とさえ思います。 それに、何をもって遂に判明とか
 
言い切っているのでしょうか。
 
 しかし、こうした混乱を見るにつけ、私はある種の疑いを覚えずには
 
いられません。
 
 それはすなわち、
 
「300年以上の時が過ぎた今もなお、ルイ十四世出生の秘密を隠そうとする力
 
が働いているのではないか」
 
 という疑いなのです。