【読書案内 5】 人生波乱万丈! 「無冠の王妃マントノン夫人」を読む | アルプスの谷 1641

アルプスの谷 1641

1641年、マレドという街で何が起こり、その事件に関係した人々が、その後、どのような運命を辿ったのか。-その記録

 

 
 
 マントノン夫人が生涯その情熱を傾けた貧しい少女たちの寄宿学校、
 
サン・シール学院の生徒 「マリ・ド・ラ・トゥールに、二十歳になったら
 
読むように」 と、夫人が死を前にして自らを語る形式を取った疑似回想記。 
 
 内容は 20% はマントノン夫人自身の書簡、40% は同時代人の書簡、
 
残りの 40% は著者シャンデルナゴールが夫人を代弁し、その数奇な生涯を
 
夫人自身に語らせています。 
 
 文庫版は 「無冠の王妃マントノン夫人―ルイ十四世正室の回想」、

 

単行本では 「王の小径 上―マントノン夫人の回想」 という書名で出版されました。 

 

 (原書は十七世紀のフランス語で語られています。 回りくどい言い方が随所

に現われるのは、そのせいでしょうか)

 

 

 

  
   
 あれこれ言う前に是非とも強調したいことは、この本が滅多に無
 
い読書体験を与えてくれる素晴らしい本だということです。 片手間に読める
 
ような内容ではなく、読むのにもそれなりの努力が要求されるとは思います
 
が、苦労した分の見返りは十二分にあることを保証します。 
 
 
 
 とにかく、殺人犯の子として生まれた極貧の少女が、後にフランス王妃に
 
なるという波瀾万丈の立志伝物語で、しかも実話なわけですから、面白くな
 
いわけがありません。 前半、幼くして母に連れられ大西洋を渡り、父のいる
 
カリブの開拓地に行きながらも、農場経営に失敗。 フランスに戻ってくるあ
 
たりは、途中でよく死ななかったものだと感心することしきり。 
 
 詩人スカロンとの異様な結婚、パリ社交界入り後の娼婦ニノンやその愛人
 
たちとの関係、さらに宮廷入り、モンテスパン夫人との闘い、そして国王と
 
の結婚と、物語は刻々と相貌を変えながら進みます。 
 
 後半、自らが手がけたサン・シール学院での教育の手ひどい失敗や、
 
自分も深く関わった宗教論争、スペイン継承戦争でのフランスの危機的状況
 
などの語りには、寵姫を越えて政治家の自叙伝を思わせるものがあります。 
 
 最後、国王を始めとする愛する人々に先立たれ、一人取り残される姿には、
 
地位や名誉の虚しさ、金銭では埋めることのできない寂寥について考えさせ
 
られずにはいられません。 
 
 
 
 あえて批判がましいことを言うならば、夫人が自分のことを語っているわ
 
けですから、自分に都合の悪いことは避けられていると感じます。 前半、若い
 
頃の自分がどれほど美人で、どれほど男性に言い寄られたか、どこか自慢め
 
いた言い方が鼻につきますし、後半は自分の行為を独善的に正当化していると
 
も思います。 
 
 しかし、これほどの栄達を遂げた人物の一人語りなのですから、少しぐらい
 
独善的になるのも、致し方ないことなのかもしれません。