第1部 「告白」、第1章「マレド群像」、第16節 | アルプスの谷 1641

アルプスの谷 1641

1641年、マレドという街で何が起こり、その事件に関係した人々が、その後、どのような運命を辿ったのか。-その記録


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第一章の最終節(第19節)まで、毎日一節ずつの連続投稿です。




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16. イルヴァ


 
  マルティーナの同僚で、その陽気な性格で人気があった。


  1641年 7月 25日、魔女として告発され処刑される。当時 23才。 


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 どこかで聞いたような悪魔の話を、この人たちは何百年も繰り返してきた。


きっと、これからもそうしていくのだろう。どうして退屈しないでいられるのか、


私には分からない。


 貴方たちは拷問して自分の言わせたいことを告白させる。その告白が埃を


被った書物に書かれていることと一致すれば満足して、それで悪魔の存在が


証明されたと思っている。そんなことに貴重な時間や労働を費やしている人


々がいるというのは驚きだ。そんな嘘に塗れた真実で満足できる人々がい


るとは。
 

  しかし、今の私は貴方たちとは違う。私は確信した。


 この世界には神も悪魔も存在しない。


 神が存在するなら、これほどの悪が為されるのを放っておくはずがないし、


悪魔がいるなら自分の仲間を助けにくるはずだ。誰かが助けてくれるのなら、


それが悪魔だろうと何だろうと構うものか。ああ、本当に自分が魔女だった


らいいのに。もしも私に魔力が使えるなら、こんな偽善者ども、例え五分だ


ろうと生かしてはおかないのに。


 ジョットーは言う。――「国家の法廷に下げ渡す、慈悲を持ってその刑を緩和


することを祈りつつ」。


 人間の口から、これほどの偽善が発せられることがあろうとは、これまで


考えたこともなかった。お前たちは自分の手で魔女を殺す度胸もなく、汚い


仕事を他人に押し付けたいだけではないか。「教会は血を流さない」と、き


れい事で誤魔化しながら。壇を下りて、その手でか弱い女の首を絞めてみ


てはどうか。卑怯者のお前たちには相応しい光景だろうに。


 私を許す? 許しを乞わなければならないのは、お前たちの方だ。地獄が


あるとするならば、それはお前たちのものだ。私が焼かれるのは一度だけの


こと、しかし、お前たちは未来永劫、地獄の炎で焼かれればいい。