( 最初から読む )
第一章の最終節(第19節)まで、毎日一節ずつの連続投稿です。
-------------------------------------------------------------------
16. イルヴァ
マルティーナの同僚で、その陽気な性格で人気があった。
1641年 7月 25日、魔女として告発され処刑される。当時 23才。
-------------------------------------------------------------------
どこかで聞いたような悪魔の話を、この人たちは何百年も繰り返してきた。
きっと、これからもそうしていくのだろう。どうして退屈しないでいられるのか、
私には分からない。
貴方たちは拷問して自分の言わせたいことを告白させる。その告白が埃を
被った書物に書かれていることと一致すれば満足して、それで悪魔の存在が
証明されたと思っている。そんなことに貴重な時間や労働を費やしている人
々がいるというのは驚きだ。そんな嘘に塗れた真実で満足できる人々がい
るとは。
しかし、今の私は貴方たちとは違う。私は確信した。
この世界には神も悪魔も存在しない。
神が存在するなら、これほどの悪が為されるのを放っておくはずがないし、
悪魔がいるなら自分の仲間を助けにくるはずだ。誰かが助けてくれるのなら、
それが悪魔だろうと何だろうと構うものか。ああ、本当に自分が魔女だった
らいいのに。もしも私に魔力が使えるなら、こんな偽善者ども、例え五分だ
ろうと生かしてはおかないのに。
ジョットーは言う。――「国家の法廷に下げ渡す、慈悲を持ってその刑を緩和
することを祈りつつ」。
人間の口から、これほどの偽善が発せられることがあろうとは、これまで
考えたこともなかった。お前たちは自分の手で魔女を殺す度胸もなく、汚い
仕事を他人に押し付けたいだけではないか。「教会は血を流さない」と、き
れい事で誤魔化しながら。壇を下りて、その手でか弱い女の首を絞めてみ
てはどうか。卑怯者のお前たちには相応しい光景だろうに。
私を許す? 許しを乞わなければならないのは、お前たちの方だ。地獄が
あるとするならば、それはお前たちのものだ。私が焼かれるのは一度だけの
こと、しかし、お前たちは未来永劫、地獄の炎で焼かれればいい。