第1部 「告白」、第1章「マレド群像」、第17節 | アルプスの谷 1641

アルプスの谷 1641

1641年、マレドという街で何が起こり、その事件に関係した人々が、その後、どのような運命を辿ったのか。-その記録


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第一章の最終節(第19節)まで、毎日一節ずつの連続投稿です。



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17. マルタ


  生涯を教育に捧げ、マレド市の教婦長となった。良妻賢母として評判高く、女性たちの鑑のよう


  な存在だった。

  1641年 7月 25日、魔女として告発され処刑される。当時 42才。 


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 私たち全員が罪を認めると、審問官は私たちに赦しを与え、壇を去ってい


きました。替わって壇に立ったのは世俗の裁判官です。裁判官は何の感情も


見せることなく、判決を読み上げました。


「悪魔と結託し、人心を惑わした罪により、火刑に処す」


 人々からどよめきが起こりました。まるで、この時を待っていたかのように。

 

 「お慈悲です」 私は叫びました。「私を縛り首にしてください。焼くのは、


私を殺してからにしてください。生きたまま焼かれるのは嫌です。私は罪を


認め、悔悛したではありませんか」


 裁判官は何の興味もないとでも言いたげに、僅かに首を横に振ると、刑吏


たちに合図をしました。兵士たちが動くと、群集を割って、道が開きました。


その先には、小さな家ほどもある高さにまで薪が組まれ、その中心には太い


杭が真っ直ぐ立っていました。


 女たちの間からすすり泣きが洩れてきました。私の足は震え、兵士たちに


足蹴にされても、もう立つことができませんでした。そんな私の尻に火を押


し付け無理やり立たせると、兵士は私の腕と脇の間に槍の柄を突っ込み、ま


るで狩の獲物のように持ち上げました。尻が焼け、腕の骨が軋み、痛みは脳


天を貫くほどでした。しかし、私が泣き叫んでいたとしても、それは苦痛の


ためではありません。この恐怖から逃れるためなら、両腕をもがれることも


厭わなかったでしょう。