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本日より、第一章の最終節(第19節)まで、毎日一節ずつ連続投稿します。
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14. 審問官ジョットー
ドミニコ会異端審問官。
1641年 7月 25日 異端審問で五人の魔女に判決を下す。
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目を上げると抜けるような夏の空だ。
判決の日には相応しくない日だ。厳かな雰囲気に欠けるし、第一、気温が
高過ぎる。遮るものもない所で、これから何時間も掛けて罪状を読み上げな
ければならない。
一群の兵士を先頭に、我々審問官の一行は城門を出て、刑場となる広場に
入って行った。広場中央には木を組んで造られた壇が設えられ、我々は段を
登って、壇上に据えられた机に着した。見下ろせば、後ろ手に縛られた五人
の女たちが壇の前に跪いている。長い槍を構えた刑吏たちが、その切先を真
っ直ぐ天に向け、女たちのすぐ後ろに立っている。女たちが何か危険なもの
であるかのように間を取って、さらにその外側を兵士が囲み、簡単な柵で辛
うじて押しとどめられている群集に睨みを利かせている。千人か、いや二千
人か、一体どれほどの人間が集まっているのだろう。十重二十重と囲まれた
判決の場の中心に位置を占めていたからといっても、何も変わる所はない。
ただ使命を全うするだけのことだ。
こうして人々が集まるのは良いことかもしれない。教会が神のしもべとし
て、その偉大な力を示すには申し分ない舞台だ。人々がどこか浮かれている
のは嘆かわしいことだが、群集とは得てしてそういうものだ。それでも、こ
の日のことは人々の記憶に焼き付けられ、何代にも渡って語り継がれること
だろう。我々カトリック教会は、情け容赦無く悪魔と戦い、悔悛した罪人た
ちには無限の慈悲で許しを与え、その魂を天国の門へと導くのだ。
罪状の読み上げを始めると、人々のざわめきは消え、自分の声と時折聞こ
える木々のざわめき、空を舞う鳥のさえずりだけとなった。罪状は精緻にし
て完璧である。女たちの告白は、「魔女への鉄槌」或は、アンリ・ボゲ師の
「魔女論」に書いてある通りのことと過不足なく一致する。空中飛行、サバ
ト、男色魔との性交、十字架の冒涜、魔王ルシフェルとの誓約。罪状を総て
読み終え、私は最初にジュリエッタに尋ねた。――なぜジュリエッタが最初
なのかというば、総てを諦めきった様子を見て取ったからだ。
「お前は罪を認めるか」
「認めます」
ジュリエッタの言葉に、群集からどよめきが起こった。壮麗な舞台に立ち、
人々の、特に男性の憧れであった歌手のジュリエッタが悪魔とのおぞましい
淫行と犯罪の数々を認めたのだ。やつれたとはいえなお美しい、その顔を埃
の舞う地面に擦り付ける。私は女が言葉を続けるのを待った。――「私は自
分の弱さから、悪魔に魂を売って、現世の安楽を得るという間違いを犯して
しまいました。ジョットー様、私は貴方様の慈悲深い言葉により、自分の罪
に気付きました。心の底からの懺悔を言葉を、どうぞお聞き届けください」
――女がそのように言葉を続けるものと思っていたが、いつまで待っても何
の言葉も発する様子が無かったので、私は痺れを切らして言葉を継いだ。
「悔悛するのだな」
ジュリエッタは地面を舐めるかのように頷いた。
神の御技は為された。私はそれで満足だ。埃と涙でまだらになったジュリ
エッタの顔を見詰め、最後の言葉を告げた。「汝は悔悛し、その罪は許され
た。神は無限の愛を持って、お前の魂を天国の門へと導くであろう。我々は
汝を教会の法廷から、国家の法廷に下げ渡す。国家の法廷が悔悛した汝への
罪の宣告する際、願わくば慈悲を持ってその刑を緩和することを祈りつつ」