「レン」
ソファに座ってくつろいでいるとき、
突然名前を呼ばれ
驚いて振り向くと、
少し不機嫌そうなイッチーがいた。
「どうしたんだい?イッチー」
「そのイッチーというのは…」
「今さらどうしたんだい?
この呼び方はずっと変わらないだろ?」
そう。
この呼び方は、
オレ達が付き合ってから
変わらない呼び名だ。
その呼び名が、
今さらどうしたと言うんだ。
「この間…音也が言っていました。
好きな人どうしが付き合ったら、
下の名前で呼ぶのが普通だ、と。」
「まあ、そうかもしれないな。
付き合っているのに、
いつまでも苗字で呼ぶのは変だろ。」
「私は…レンと呼んでいます。」
「…?
そうだね。」
イッチーはなにが言いたいんだ?
オレはイッチーが言いたい事がわからず
もんもんと考え込んでいた。
「どうして、
トキヤと呼んでくれないんですか?」
「……え………?」
「ですから…!!
なぜトキヤと呼んでくれないんですか!?
イッチーは、
一ノ瀬とかけているんでしょう?
ならばそれは、苗字…!!
レン!!何を笑ってるんですか!?
私は真剣に…!!」
いつもクールで
オレがちょっかいを出しても、
素っ気ない態度で返してくる
イッチーが、
顔を真っ赤にしている。
それがどうしようもなく
いとおしく思えて、
顔がにやけてしまった。
「…っ…ごめんごめん♪
イッチーが可愛くて、つい♪
でも、なんでイッチーって呼んでるかは
ナイショ☆」
そう言って、イッチーに
ウィンクを飛ばす。
「………、レン」
イッチーは
いきなり真顔になり、
オレに近づいてきくる。
そして、オレをソファに押し倒した。
「え…!?
ちょ…、イッチー、落ち着いて!!」
「私は充分落ち着いていますよ?
あなた方こそ、
落ち着いたらいかがですか?」
イッチーは、
Sっ気のある綺麗な笑みを浮かべる。
こんな状況で
落ち着いていられるか…
「あなたがトキヤと呼ぶまで…
私は止めませんよ…?」
耳元で囁かれ、
ピクっと肩が揺れる。
「わかった!!
言う!!言うから!!」
オレはイッチーの胸を
必死に押し返した。
だが、イッチーはどこうとはせず、
オレを見下ろす。
「ほら、トキヤと呼んでください。」
また、その顔。
オレは急に恥ずかしくなり、
顔をそらした。
「ト………キ……ヤ…………」
「ん?聞こえませんでしたね。
ほら、ちゃんと私をみて。
もう一度。」
チラッと、イッチーの顔見ると
楽しそうに笑ってる。
こいつ……
絶対聞こえてる………
「いやだね。
トキヤなんて呼ばない。」
そう言うと、
イッチーは驚いて目を見開いている。
「……、なぜですか?」
オレは、
トキヤなんて呼ばない。
だって…
「……、オレだけだろう…?
イッチーって呼んでるの……」
「…え?」
自分の顔が熱くなるのがわかる。
これじゃあまるで、
さっきのイッチーと同じだ。
「だから、オレだけだろ!?
イッチーって呼んでるのは……
トキヤなんて呼んだら…、
他のやつらと一緒だ…。
オレだけの呼び名が欲しかった…。」
言い終わると、
無性に恥ずかしくなり、
手で顔を隠した。
「レン……」
上から呼ばれ、
見ると、穏やかな顔で
微笑んでいるイッチー。
ゆっくりと顔が近づいてきて、
軽く触れるだけのキス。
「特別にイッチーと呼ぶのを許します。
でも、“そういうとき”は…
トキヤと呼んで欲しいものですね…」
「…っ!!!」
「ふふ♪冗談です。」
また、Sっ気のある
綺麗な笑顔。
こいつ……
絶対冗談で言ってない…
オレはトキヤなんて呼ばない。
たぶんずっと、イッチーと
呼び続ける。
オレがその名前を呼ぶのは
こいつの、
特別になれるから。