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今回は山梨県南アルプス市にある鋳物師屋遺跡出土品を訪ねました。
鋳物師屋遺跡のある南アルプス市は御勅使川の扇状地上にあり、御勅使川の急流の激しさは前回までの「御勅使川旧堤防」でも紹介しました。
その水流は南アルプスの山々を激しく浸食しているため、この地域の岩礫の堆積速度はとても速いのです。
ある地点では地質のボーリング調査をした時、100mを掘削しても地盤が現れず、岩礫ばかりだったのでボーリングを諦めたという話もあるくらいです。
なので、この地域の原始時代の調査はあまり進んでいません。埋まっていたとしても深すぎて、調査が難航するからという理由だそうです。
その中で、鋳物師屋遺跡は珍しく調査された縄文中期の遺跡です。そこからの出土品は造形のすばらしさや特徴的な点から205点もの出土品が重要文化財に指定されました。
この度、指定から30周年を迎え、10数年ぶりの全点一括公開が南アルプス市 ふるさと文化継承館で行われました(2024年(令和6年)1月現在。既に終了しています)。
重要文化財の出土品を一堂に見られるなんて、この機会を逃してはならないとばかりに鋳物師屋遺跡出土品を訪ねました。この日、御勅使川旧堤防も訪れましたが、本当の目的はコチラでした。
この施設は、こんな豪華な特別展も実施するのに、入館は無料と太っ腹な施設です。
案内していただいた係の人に
「施設維持のためにも、入館料は取った方がいいんじゃないですか?」
とも訪ねたのですが、
「市民の方に気軽に文化に触れてほしいとの方針で、無料なんですよ。」
とのお返事でした。
せめて施設維持のお役に立てるように、と、施設内にあった200円のガシャポンを回してきました。
縄文中期の造形といえば、岡本太郎に「芸術は、爆発だ!」と言わせしめた新潟県馬高遺跡出土の火焔土器が有名です。
この土器も、たびたび紹介してきましたね。
しかし、中部高地といわれた八ヶ岳山麓から甲府盆地周辺の縄文中期の遺跡だって、新潟の文化に引けを取らない造形美があるのです。
その一端は以前にも一件、紹介しました。
しかもこの地域は釈迦堂遺跡群や鋳物師屋遺跡だけでなく、井戸尻遺跡、藤内遺跡、酒呑場遺跡、一ノ坂遺跡などが有名です。これらの遺跡名を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
上記の遺跡からの出土品はいずれも重要文化財に指定されています。
ちなみに原始時代に遡る品で初めて国宝に指定された「縄文のビーナス」土偶や、近年国宝になった「仮面の女神」土偶もこのエリアに属しています。
そんな原始芸術の一角を担う鋳物師屋遺跡出土品、どんなものなのか興味深いですよね。展示室へ入ってみましょう。
展示室に入っていきなり目を引いたのが、こちらの土偶でした。
見事な土偶です。完形で復元されたのは珍しいです。
中央高地は完成度の高い土偶が完形で発見される例が多いのも特徴的です。縄文のビーナスとか、仮面土偶もいい例です。
妊婦を模しているとされています。
左手でお腹をさすり、右手は腰に当てられています。妊婦さんは腰がつらいですからね。おへそを中心に上下に伸びる線は妊娠線かな?などと見てしまいます。
子孫繁栄を祈願したといわれています。
この土偶にも愛称がつけられているんですよ。
「子宝の女神 ラヴィ」
なるほどね、「子宝の女神」とは相応しいです。
この土偶をモチーフにしたキャラクターもあって、グッズ展開していました。
うちの奥さんも、キーホルダーを思わず購入してました。結構カワイイ。
ところで、鋳物師屋遺跡ってどんな遺跡なのでしょう?
鋳物師屋遺跡は南アルプス市内・旧櫛形町下市之瀬地内でで工業団地の造成に伴って見つかりました。
御勅使川扇状地の末端付近で発見されたため、岩屑が堆積して遺跡の発見が困難といわれていた扇状地上での発見に世間は色めき立ちました。
多数の遺構と遺物が発見され、大変注目されたのです。
ここからは他にも、特徴的というか、釈迦堂遺跡や縄文のビーナスを彷彿とさせる土偶があります。
これらも一緒に重要文化財に指定されているので、今回の展示で見ることができました。
このサル顔の土偶、報告書では「土偶という表現よりも、むしろ「猿形土製品」とした方が適切かもしれない」なんて書かれていました。
顔の部分だけでなく、胴部や足、腕も出土しています。
そして、中央高地を代表する特殊な形状の土器といったら、この「有孔鍔付土器」ではないでしょうか。
山梨~長野県内の縄文土器でよく見られる土器です。
「酒を醸した」「太鼓として使った」
などといわれていますが、いまいち決め手に欠けているようで、どのような目的の土器なのかわかっていません。
で、鋳物師屋遺跡出土のものでは、人形の文様がつけられていることに特徴があります。
左手部分は出土していないそうですが、絵付けのスペースなどの推察で腰辺りに垂らしたように復元されています。
これもまた子孫繁栄を祈願したと考えられています。
宇宙人っぽい造形が目を引きますね。
他にもここから出土した土器は、関東南部に分布する勝坂式を彷彿とさせる隆帯文や沈線文を多用した深鉢形土器が多かったです。
隆線で囲ったような文様から、「パネル文」といわれています。
そして、火焔型土器にも負けずにうねるような渦巻文を立体的に把手に使用した「水煙文土器」も見事です。
人形を意識した立体的な把手も特徴的です。
渦を巻いたような隆帯文様は中央高地で最もよく見られる文様です。
こんな小型ながら、精巧な出来の土器もありました。
土器類は造形が見事なだけに目を引きます。
しかし、地味ですが石器類もあります。
華がありませんが、下のような石器や土製装飾品も鋳物師屋遺跡での生活を支えていた重要な道具でした。
石器類は縄文時代の遺跡では必ず見られるものばかりで、あまり興味が湧いてきません。
でもこれも遺跡での生活を構成した遺物なのです。なので一括して重要文化財に指定されています。
石材は黒曜石と、付近の河原で調達したもののようです。どうしても土器・土偶の秀麗さに気が向いてしまいますよね。
あと、大量に出土したのが土製円板といわれるものです。土器の破片を丸く削ったもので、釣りの錘に使用されていたとされていますが、これを撮影してくるのを忘れました。
これもまた地味な出土品なので、うっかりしていました。なのでここでは紹介できません。
いかがでしたでしょうか。
この地域の遺跡は土器のデザインに目が奪われてしまいます。山梨県や長野県の中信地方では小さな博物館でも、重要文化財に指定されていなくても見事なデザインの土器が見られます。
そのため、この地域は日本遺産「星降る中部高地の縄文世界」としても認定されているのです。
このストーリーには先に紹介した縄文のビーナスや仮面の女神、釈迦堂遺跡群、酒呑場遺跡や一ノ坂遺跡も含まれています。
ぜひ一度、これらの文化財を訪ねてみませんか。そんな時には歩きやすい靴を。
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これを履いて、出かけてみませんか。
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鋳物師屋遺跡出土品 (平成7年6月 重要文化財、山梨県南アルプス市野牛島)
鋳物師屋遺跡は南アルプス市下市之瀬地内に所在しました。平成4(1993)年から5年にかけて、旧中巨摩郡櫛形町が中心となって工業団地造成に関連した埋蔵文化財調査を行ない、縄文時代、平安時代の住居址や中世の積石塚と見られる遺構などが見つかりました。
特に縄文時代中期前半の遺物は完形や復元可能品が豊富で点数も多く、そのほとんどが竪穴住居址から出土したという点も含めて当時の中央高地における生活の一端を特徴的に示しているとして、保存状態の良い205点の土器、土製品、石器、石製品が重要文化財に指定されました。
参考文献:「鋳物師屋遺跡」櫛形町文化財調査報告No.12、櫛形町教育委員会(1994)