天然記念物を訪ね歩いていますと、時々、いわゆる「巨樹」といわれる木に出会うことがあります。
たいがい数百年~千年以上の樹齢があります。
このような巨樹に出会うとその神々しさに、世俗に塗れた自分の穢れが洗い流されるような気がします。
最近はやりの、いわゆる「パワースポット」のようなものなのでしょうか。
今回は、最近訪ねた天然記念物の巨樹を3か所紹介します。
1.清田の大クス
最初に紹介しますのは、愛知県蒲郡市にある清田の大クスです。
先に紹介した竹島八百富神社社叢とは、割と近い距離にあります。
清田の大クス
遠くからでも、その威容を見晴らすことができます。
クスノキは巨樹になりやすい樹種です。日本一の巨樹とされる木もクスノキです。
清田の大クス(天然記念物の標柱)
どうですか?大きな木だと思いませんか?
日本一には及ばないのでしょうが、大樹と呼ぶに相応しいではないですか。
クスノキは暖帯性の常緑広葉樹で、防虫剤の樟脳の原料となることで有名です。
清田の大クスの主幹
主幹も1000年の年月を経て、いびつな形に膨らんで神秘性を増しています。
大きく張り出した枝
そしてこの枝振り。
クスノキは年月を経ると大きく枝を張り出すことが多いそうです。
一本の木なのに、まるで森のようです。
清田の大クス(北から)
この辺りは、明治時代にはこのような大きなクスノキが鬱蒼とした森を成していたといいます。
開発が進んで伐採され、最後に残った木なのだとか。
これからも大事にしたい木です。
2.阿豆佐和気神社の大クス(来宮神社の大クス)
またもクスノキです。
やはりクスノキは大樹になりやすいようです。
このクスノキは静岡県熱海市の古社、来宮神社の境内にありました。
来宮神社
この拝殿から本殿の裏へ、向かって左に回り込むと件の巨樹は空へ向かって高くそびえていました。
神社のご神木でした。
地元での表記は、案内板などもすべて「来宮神社の大クス」なのですが、この木を紹介している本などによると正式な指定名称は「阿豆佐和気神社の大クス」のようです。
阿豆佐和気神社の大クス(来宮神社の大クス)
向かって左側(南側)の分幹が失われています。昭和49(1974)年に台風で失われたようで、もとは今より広く巨枝を広げていたようです。
そのせいで威容が損なわれているのが残念です。
来宮神社の大クス 主幹
それでもこの太い幹!ご神木と云われるに相応しい木です。
来宮神社の大クス(西から)
さらに西側からの眺めは、かつての威容を彷彿とさせます。
来宮神社の大クス 洞(うろ)
そして北側には、大きな洞がありました。人が軽く2~3人は入れるほどの大きな洞です。
神社の一の鳥居のところには、次世代(?)の大クスが育っていました。
次世代(?)の大クス
3.城願寺のビャクシン
今回の最後に紹介するのは、神奈川県湯河原町にある城願寺のビャクシンです。
城願寺
城願寺はJR湯河原駅から程近く、歩いても10分程度の距離です。
こんな町中にそんな巨樹があるとは想像できませんでした。
お寺までの道は、自動車ではやや狭い、いわゆる生活道路です。
お寺の駐車場はありますが、観光地でもないので車での来訪は控えた方が良かったかもしれないと思いました。
城願寺のビャクシン
その巨樹は、参道の急な石段の先に突然現れました。
あまりの大きさに参道の途中から見上げても見上げ切れません。
城願寺のビャクシン 幹
幹が捻じれたように、というか捻じれて伸びあがっています。
まるで絞った雑巾のようです。
ビャクシンは寺社の参道の並木や民家の庭木としてよく植えられていて、樹自体はよく見かけます。
ところがこの木は、樹齢を重ねると幹が捻じれたようになるのが特徴なのです。
したがって、捻じれた幹は古木の証です。
城願寺のビャクシン 本堂側から
空高く異様な姿を見せる城願寺のビャクシンですが、その姿には重ねた年月の重みを感じさせます。
ここ数年で、枯死したために天然記念物指定を解除された巨樹の情報をよく聞くようになった気がします。
ここ100年ほどで気候や環境は明らかに変化しており、数百年以上を経てきた巨樹たちにとっては耐えられない急激な変化なのかもしれません。
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清田の大クス(昭和4年12月・国指定天然記念物 愛知県蒲郡市清田町下新屋)
中部地方におけるクスノキの代表的巨木。根回り約13.6m、目通り幹囲約11.7m、根元からの枝張りは東へ約15m、西へ約9mにも及びます。樹齢は不明ですが1000年を超えるともいわれます。周辺にはクスノキの森があったとも伝えられ、八幡太郎義家の東征記念の記念樹という伝承もあって大事にされてきたようです。
阿豆佐和気神社の大クス(昭和8年2月・国指定天然記念物 静岡県熱海市西山町)
この木はJR来宮駅の北側にある来宮神社境内の奥にあり、ご神木とされてます。幹は大きく2つに分かれていましたが、南側の幹は地上約5m位から折れて失われています。北側の幹は目通り幹囲約12.5m、高さは約20mに達します。
城願寺のビャクシン(昭和14年9月・国指定天然記念物 神奈川県足柄下郡湯河原町城堀)
樹高18m、目通り幹囲6.3m。城願寺は、源頼朝が鎌倉幕府を開いた時に功績があった土岐実平が開いたとされています。ビャクシンはそのとき植えられたものが成長したと伝えられ、樹齢は約800年とされています。
参考文献 『日本の天然記念物』 講談社(1995)
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