名宝を訪ねる ~日本の宝 『文化財』~

名宝を訪ねる ~日本の宝 『文化財』~

国宝や史跡、天然記念物などの国指定文化財を巡り堪能し、その魅力を紹介するブログ

城跡だけじゃない、仏像だけじゃない、建築だって、遺跡だって、化石だって大好き!
日本の長い歴史の中で生まれたさまざまな『文化財』が大好きなんです。日本の文化財を見れば、日本ってすごい!と強く感じます。文化財のここがおもしろい、すごい、好き、をうまく紹介できればいいな、って思ってます。どうぞご覧になってください

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今回の目的地は温泉です。

 

最近、近代になって整えられた有名な景観が文化財に指定されるようになりました。例えば10年ほど前、大分県にある別府温泉では「地獄めぐり」が有名ですが、そのうち古くから知られている4ヶ所の「地獄」が国指定名勝に指定されました。

 

今回訪ねたのは群馬県にある草津温泉の「湯畑」です。このような古くから行楽地として有名な場所が文化財として指定される例は今後、増えていくと思われます。文化庁によると、平成23年度から2年間、文化庁記念物課において「名勝に関する総合調査」を行っています。

 

名勝とは文化財保護法の中で、風致景観の優秀な自然的景観や芸術上の観賞価値が高い人文的なもの(公園や庭園)と定義され、具体的に11の項目も挙げられています。

 

さらに近年は従来の評価基準から拡大し、対象範囲が近代以降に造られた庭園・公園にも広げられたり、「特定の文脈に基づいた一群の景勝地」として評価されるものも対象となってきました。「『おくのほそ道』の風景地」や「イーハトーブの風景地」などがその例です。

 

そして「地域の風土を反映した名勝への配慮」ということも重視されるようになりました。その例には今回訪ねた湯畑や別府の地獄などが含まれています。

 

平成23年からの総合調査は、そんな背景をもって行われました。今後、この結果を反映した場所が指定されていくことでしょう。

どのような場所が指定されるのか、楽しみです。

 

 

さて、草津温泉といえば日本三名湯(草津、有馬、下呂(別府温泉が入ったりもします))としても有名だし、江戸時代には東西温泉番付として大関(当時、横綱はありませんでした)に、「西の有馬」に対する「東の草津」と紹介されたりもしています。

 

その草津温泉の中心地にある「湯畑」は、草津温泉の源泉の一つであり、湯の花を採取するための「湯樋」が掛け渡された風景が昔から有名です。

 

 

 

その湯畑が平成29年、国指定名勝に指定されました。今までの名勝指定とは感覚的に違ったので、そのニュースには驚いたものです。

 

 

草津温泉には以前から何度か来ていますが、そういった理由から改めて草津温泉の「湯畑」を訪ねてみました。

 

 

湯畑の全景(南西にある光泉寺参道から)

 

湯畑周辺には駐車場はありませんので、やや離れた有料駐車場を利用します。

 

草津温泉までは東京方面から直通の高速バスもありますし、鉄道利用なら北陸新幹線の軽井沢駅から、あるいは上越・北陸新幹線から高崎でJR吾妻線に乗り換え、長野原草津口駅から路線バスに乗り換えます。いずれも草津温泉バスターミナルへ到着します。

 

長野県の上田駅やJR吾妻線の万座・鹿沢口駅からもバスがあります。山深い場所にありますが、とにかく交通の便はいいです。

 

バスターミナルや有料駐車場から歩くこと約1㎞、時間にして15分ほどで湯畑に到着します。

 

湯畑(南西から)

 

ここを見るだけで、「草津温泉に来たなぁ~」という実感がわきます。

 

周囲の温泉ホテルや旅館も、老舗ばかり。ここから草津温泉が発展していったのです。

 

これらの老舗旅館の中には登録文化財に登録された建物もあり、湯畑の景観を形成しています。

 

下の写真は、旅館「草津温泉 山本館」をバックに撮影した湯畑です。山本館は登録文化財です。

 

湯畑と登録文化財「山本館 本店」

 

この山本館本店は、草津温泉を襲った2度の大火のあと、明治30(1897)年に建てられた当時からの建物です。

 

 

 

 

湯畑は地形的に南西が高くなっていて、湯樋も南西から北東にかけて渡してあるのがわかります。その南西側に源泉が湧出しています。

 

湯の花が沈殿していて、大きな露天風呂の様です。ただ、源泉なので泉温は約55~60℃もあり、とても入浴できる温度ではありません。その前にここへの立ち入りや入浴・遊泳は禁止されていますので、ご注意ください。

 

湯畑の源泉(南西側)から見た湯樋の列

 

源泉の中には大きく木枠で囲われた一角があります。

 

昔はここで入浴できたのか?その名残かな?

 

湯畑の源泉(湧出地)

 

と思ったら、徳川第8代将軍吉宗に草津温泉の湯を献上したことがあり、その温泉水を汲み上げた湯桶の跡なんだそうです。

 

当時からそのまま残っていて、湯畑の中央西寄りには「徳川八代将軍御汲上之湯」碑が建てられていました(碑は昭和5年に建てられています)。

 

「徳川八代将軍御汲上之湯」碑

 

湯畑といえば湯の花を採取するための7本の「湯樋」が有名です。これは源泉を樋に流して冷却し、析出してくる温泉成分を採取する設備です。

 

「湯の花」は今でも草津温泉の名物土産物品です。今でいうと入浴剤ですね。

 

 
 

 

 

 

 

 
 

この「湯樋」にはアカマツの樹が使われており、最初に掛けられたのは明治20年代、今でも時々交換されているそうです。

 

ここを通過することで、各施設へ送る温泉水から有害な硫化水素ガスを脱気する効果もあるとか。

 

湯樋

 

湯樋

 

湯樋(北東側から)

 

湯樋の末端

 

 

温泉水は湯樋を流れ、湯畑北東部で滝のように流れ落ちます。

 

その下には岩盤があり、さらに本当の滝となってお湯が流れ落ちていました。

 

 

湯滝

 

湯滝(上部から)

 

湯滝と滝壺

 

小さなナイアガラの滝のようで、圧巻です。古くはこの滝壺に共同浴場「滝の湯」がありました。

 

今は立ち入り・入浴・遊泳は禁止です。

 

 

湯畑は草津温泉の中心を成し、近代以降の草津温泉において温泉地としての景観形成に大きく寄与しているため、国指定名勝となりました。

 

先にも述べた、ここを見ると草津温泉に来たなぁ、と実感させられるのはそのせいなんです、きっと。

 

このあと、せっかく温泉地に来たのですから草津温泉を堪能し、今日の疲れを癒してから帰路についたのでした。

 

草津温泉は内湯もいいのですが、入浴料がちょっとお高めなので、手軽に温泉を楽しむなら「西の河原露天風呂」をお勧めします。こちらは湯畑から草津白根山の方へちょっと行ったところにある「西の河原公園」内にある共同浴場で、駐車場も「天狗山ゲレンデ」のものが無料で使用できます。入浴料がおひとり様700円で、入浴しかできませんが広々とした露天風呂なので、開放的な風景と硫黄臭い、いかにも温泉らしい泉質を楽しめます。

 

 

湯の花も土産に買うかどうか迷ったのですが、我が家の給湯設備は入浴剤と相性が悪いので、やめておきました。

 

 

 

 

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湯畑 (平成29年10月 名勝、群馬県吾妻郡草津町草津)

 

草津温泉は群馬県吾妻郡草津町草津にある、日本有数の自然湧出量を誇る温泉地です。古くから湯治場として繁栄し、室町時代には既に西の有馬温泉や飛騨の下呂温泉と並び称されるほどでした。

 

湯畑は草津温泉の温泉街中心に位置する源泉で、毎分4,040ℓも涌出し、源泉温度は約55℃、酸性度も強くpHは2.0ほどです。江戸時代には八代将軍徳川吉宗に湯が献上されています。湯畑で有名な「湯樋」は明治20年代に初めて設置されました。その下流にある湯滝には、かつて滝壺に共同浴場がありました。

 

現在は湯畑の周囲に石柵が設けらています。湯畑周囲に柵がいつからあったのかは不明ですが、石柵になったのは昭和9(1934)年のこと、現在の石柵は昭和50年、岡本太郎が代表を務めた「現代芸術研究所」の設計によります。

 

このように湯畑は温泉街の中心に位置し、源泉、温泉水が流れる湯樋、湯滝・滝壺、石柵が、年代によって次第に形成されて街の景観を形成し、その中心となっており、このような景観は他に例がない独特のものとされ、その観賞上の価値の高さから名勝に指定されました。