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今日は、精神科病棟での音楽療法について、書きます。

今から13年くらい前、K病院の精神科で、集団音楽療法をしていました。

精神科では、音楽療法が行われる部屋が、社会の枠であり、
部屋に入れることが、個人の枠の外、社会へ出る一歩と考えます。
まず、部屋に入れたことを評価します。


部屋に入ったあと、セッションとは全く関係なく、別の作業をしながら、
耳だけ傾けている人や、
後ろのほうに座って、だまって見ている人もいます。
部屋に居られることを、評価します。


だんだん、セラピストの声掛けに返答したり、興味のある歌の歌詞を眺め、口ずさんだりするようになります。
反応があったとき、その人の持っているものを引き出します。
口ずさんだ歌に、どんな思い出があるかや、なぜ好きなのか、など、問いかけます。
返答がなくても、反応したことに対して、評価します。


会話ができて、好きな歌手や、好きな歌が分かれば、リクエストに応えて、皆でその曲を歌います。
そうすると、個人が、部屋にいる全員と、歌で繋がります。
他人へ視野が広がることと、大勢の中の一人として、所属でき、居場所を得られた安心感を得ます。
気持ちを分かってもらえた(共感)と感じたり、自分の感情に気づけたり、

何かを思い出したりして、流涙される方もいます。

今度は、別の人のリクエストを、全員で歌います。
他の人の気持ちや、思い出を共有します。
自分の思いも重なったりして、流涙される方もいます。
自分の気持ちを話すことで、他の人も共感したり、
自分の気持ちを、何でも話しても大丈夫なんだ、という体験をします。
もし、話したことに対して反論する方がいた場合は、セラピストが介入して、
境界線を作るサポートをします。


基本的には、既成曲を歌います。
予測がつく、終わりがある、という枠の中で、安心して自己表現するためです。


音楽経験者がいた場合は、できれば、演奏して頂きます。
自己表現して、喜ばれる、評価される、役割を持つ、という体験をします。


集団のメンバーがだんだん慣れてきたら、
今度は、楽器で、即興をします。
まずは、好きな楽器、又はハンドベルを選んで頂き、
音投げ(←ノンバーバルコミュニケーション)をします。
音投げは、何も言わずに、目線だけで、相手に音を投げ、
受け取ったと感じた人が、また別の人に、音を投げる、という方法です。
ゲーム的に面白くて、笑いが起こったり、
言葉を介さなくても、意志が通じる体験ができたり、
即興の音楽としてきれいだったりして、盛り上がります。


逆に、音を絶対鳴らしちゃだめだよ、と、すずを回して、鳴った人に罰ゲームをしたり、
歌を歌いながら、爆弾ゲームをしたりします。
笑いが自然におこります。


もう少し慣れたら、ドラムサークルをします。
どの楽器を選ぶかで、社会におけるその人の立ち位置が分かったり、
正確に拍子を取れないことで、病気の重症度が分かったりします。
大きな音を鳴らすよう盛り上げると、

内からどんどん怒りのエネルギーが出てきて、発散できる人もいるし、
できるだけ目立たないように、最初から最後まで、なんとなく鳴らしたり、
周りに合わせることに一生懸命だったり、
周りに全く合わせられず、独自に演奏したり。
その人の、現在の様子が分かります。

最終的には、テンポ(拍子)が揃って、その枠の中で、それぞれが自由に、

じぶんの音を奏でられるように持っていきます。
社会という枠の中で、自分らしく生きる、練習ができるといいな、と思っています。


そして、皆で演奏した音楽を、お互いに評価し、達成感を得ます。
精神科の患者さんは、自己尊重感の低い方がほとんどです。


最後は、クールダウンで、ゆっくりとした曲や、ハンドベルの音に耳を傾け、
現実のテンポに戻します。
盛り上げて、興奮した状態で終わることはありません。
感情のコントロールができない場合があるからです。


参加された方に、感想を聞き、感謝の言葉を伝えます。
全く知らなかった患者さん同士が、音楽療法の場で、仲良くなり、
終了後も、気持ちを共有できるようになることもありました。


終了後、セッションで得た情報を、
看護記録に残したり、重要なことは、スタッフに報告したりします。


「私も音楽療法士になりたい」と、
何人かの音楽経験者の方に言われました。
でも、音楽療法が仕事にならない(ボランティアである)ことや、
病院で音楽療法をするためには、資格がいるが、
資格をとるためには、音楽療法学部のある大学など認定校へ通うか、
臨床経験5年と講習会受講などの後、認定試験を受けることが必要と伝えると、
皆さん断念されました。


音楽療法士は、

音楽だけでなく、医療や福祉の勉強も必要で、

音楽は、様々な楽器が演奏でき、歌で誘導できて、

しかも、相手に合わせて演奏できなくてはなりません。

聴音も、初見も、即興も、移調も、技術が必要です。

その引き出しがないと、

相手の能力を引き出すことができません。

何より、人間としてどうかを問われます。

これが一番大事です。