秋山和慶指揮東京交響楽団 第724回定期演奏会 | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

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日時:2024年9月21日(土)18:00~

会場:サントリーホール

指揮:秋山和慶

演奏:東京交響楽団

独奏:竹澤恭子

曲目:

ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」

ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」WAB104

(1878/80年稿ノヴァーク版)

                

感想:

 指揮者の秋山和慶さんが指揮者生活60周年の記念演奏会でブル4を取り上げるというのので、訪れてきた。

 東京交響楽団は日本に戻って来てから接してはいたが、定期演奏会はかなり久しぶりである。

 連日のように開催される各オーケストラの演奏会だが、定期演奏会というのはそのオケの手慣れたレパートリーではなく、意欲的なプログラムが組まれるため、その他の演奏会より気合いが違う。

 従って指揮者もオケも緊張感が高まり、スリリングな演奏となる場合が多いため、そういうバチバチを求めたい方は定期演奏会を選んで聴くことになり、○○名曲演奏会とは客層も自然と異なってくる。

 そういった意味での今回のロマンティックは意欲的に組んだプログラムと言うことが出来、期待値が高い。

 

 さて前半はアルバン・ベルクのヴァイオリン協奏曲(1935年)で独奏は竹澤恭子さん。

 竹澤さんは、その昔に何度もオケや室内楽で聴いていた記憶があり、しっかりした実力を持っている印象の方。

さてベルクは十二音技法で知られるように、無調性でメロディの流れを味わうというよりは、音の響きと響きの調和の変化を感じるような曲である。

 第1楽章からともすれば曲が崩れてしまうような絶妙な響きの連続となるが、さすが手練れのマエストロとソリストはこの曲を実に見事に捌く。

 ヴァイオリンの響きがオケと調和しながらとても心地よく流れるのである。

 続けての第2楽章はダイナミックに曲が動き、ヴァイオリンも強いエネルギーを音に載せる。

 オケの激しいクライマックスの嵐の中でもソリストは沈まず存在感を示し続け、しっかりとバランスの取れた音楽を示し続ける。

 最後のコーダでは副題の「天使・・」を想起させる響きを残し、久々に20世紀の音楽を聴いたという印象の演奏だった。

 その後のソリストアンコールでは、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番第3楽章が演奏され、ソリストの熟練に満ちた優しい音色が響き、テクニックを披露しがちな若手とは一線を画す心を満たしてくれる素晴らしい演奏だった。

 

 後半はお待ちかねのロマンティック。

 指揮者生活60年のマエストロがどんなブルックナーを聴かせてくれるのか演奏前から興味津々で臨んだ。

 冒頭のトレモロは、やや弱くそれほどの厚みを感じさせずスタートする。

 そこへ飛び込んできたホルンも、どちらかと言えば貧弱で、これはがっかりの演奏のパターンかと思い始めていた。

 そこからの展開も弱めで力強いものではないなと感じ始めていた矢先、何とも言えない味わい深い響きが醸し出され始める。

 全体が聴かせるメロディの波は決して派手な表情は見せないが、素材のうま味がじわじわと紡ぎ出されていく。

 そこからはマエストロの独壇場で、この素材はこういう旨味が隠されているんだというばかりに、各フレーズの旨味が次々と目の前に差し出されすっかり魅了されてしまう。

 他のブルックナー指揮者が聴かせるような、うねりの効いた力強いブルックナーはそこにはないものの、ポトフのように地味でも深い味わいを秘めたブルックナーの旨味がそこにあった。

 そんな旨味を味わって魅了されたまま、あっという間に第1楽章を終える。

 続く第2楽章も、前楽章の魔法は解けず、奥深いと言うほどの彫りの深さは見えないが、じわーっと伝わる出汁のような旨味を音楽から感じる。

 このサントリーホールの響きの良さも手伝って、キノコや根菜が醸し出す旨味のようなふんわりとした香りの音色がホールいっぱいに広がる。

 そこにアクセントを加えるピッコロやオーボエも、一つまみの塩や胡椒のようで音楽を引き出すことはあっても邪魔はしない。

 あくまでも素材の旨味が素直に味わえる演奏である。

 クライマックスを迎えても、決してメロディがごり押しされずあくまでも素材本位といった感じの演奏で音楽が進み楽章を終える。

 第3楽章のスケルツォも慌てず、ゆったり目のテンポでスタートし、やはり素材の味わい本位といった感じで各フレーズが流れる。

 まあこちらが野暮なので、その抑え気味なテンポに刺激の弱さを感じる面もなくはなかったが、マエストロはペースを崩さない指揮を続けて行った印象で、まるで老練な職人のようだ。

 そして第4楽章、この楽章に限っては比較的オーソドックスな力強いブルックナーの展開ではあったが、語り口はあくまでも優しく、ピュアな音で奏でられる。

 ゴツゴツした表現を避けるように、丁寧にメロディが展開され、そういった中でもマエストロの経験の集大成のを込めたメロディバランスで曲が操られていく。

 そしてフィナーレでは、あくまでもまっすぐ素直なマエストロの音楽が貫かれたような打ち放たれた光の筋が消えるように音楽が閉じられた。

 最後まで胸へ響く演奏であった。

 聴衆の満足度も高かったようで、終演後のカーテンコールはもちろんのこと、オケのメンバーが退場してもマエストロはステージに呼び出され、聴衆の拍手を受けるほどだった。

これまでのこの曲の像とはかなり趣の異なるロマンティックであったが、さすが一時代を担っているマエストロだなということをしみじみと感じさせてくれた良い演奏だったように思う。