兪潞指揮寧波交響楽団 「春の祭典」 | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

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日時:2023年05月10日(水)20:00~

会場:上海交響楽団音楽庁

指揮:兪潞

演奏:寧波交響楽団

独奏:

曲目

ベルリオーズ:歌劇「ローマの謝肉祭」序曲 作品9

リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲 作品34

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「春の祭典」 K015

 

 

感想:

 この日は寧波のオーケストラの演奏会。

前回と同じように中国の優秀オーケストラの中国国内ツアーコンサートの一つである。

この日は若手の指揮者兪潞さんの指揮で行われた。

前回中国の地方オーケストラのイメージが覆されたので、今回もどんなものかと興味が湧きコンサートに臨んだ

さてオケのメンバーが入って来るとオールアジア系のメンバーで、メンバー表がなかったので正確にはわからなかったが、ほぼ中国人奏者で構成されたメンバーであろう。

年代構成的には20~40代といった印象で、コンマスの方が日本のテナーの青島広志さんみたいな雰囲気の方で一人年配の方なのかなという印象。

指揮者の兪潞さんは写真よりは恰幅の良い体格である。

 

 1曲目はローマの謝肉祭である。

出だしの1曲目のバイオリンの音の揃い方に非常にびっくりした。

やはりこのオーケストラもレベルが高いのだなと驚かされた。

 ただ木管や金管の鳴り方を聴いていると上海のオケには若干及ばないのかという印象は感じる。

もちろんそれは比較してみての話であり、プロとして演奏活動を行うのに遜色があるわけではないレベルで演奏そのものは無難にこなされていた。

 ただやはり音のキレという面でやや技術的に弱いのかなというのは感じた。

 

 2曲目のスペイン奇想曲でさらにそのキレが鈍い傾向は露わになる。

 音としては奇麗に鳴っている印象なのだが、指揮者の能力の問題なのかオケの技術の問題なのか分からないが、音のキレという面で鋭さがないというかそこに弱さを感じる。

全体の音の鳴らし方としては問題なく頑張っているが、音楽的な魅力を紡ぎだすにはもう一つ上が欲しい印象である。

 

 そして後半はメインの「春の祭典」である。

出足のファゴットの音は音の鳴り方としては頑張ってはいるが、この曲のテーマを示すような怪しい音色にはもう一つ足りない。

とはいえ、オケ全体の鳴り方としてはまあ及第点な演奏ではある。

しかしこの曲でもキレの悪さが、目につく。

 この曲はリズムが次々と切り替わるので、その切り替わりのコントラストをはっきりさせた方がよりスリリングな演奏になるはずなのだが、どうもそういったコントラストは見られなかった

 残念ながら、各パートの音はなぜそのようなリズムに切り替わって演奏するのかというはっきりした目的というか イメージが見えない状態で音楽が進んでしまっているようだった。

 実はこの日の指揮者は前半後半を含め、スコアなしの暗譜で指揮をしているのだがそこがどうも効果的な演奏に届かない理由であるような気もしなくもない。

このようなメリハリの少ない曲の進行によりこの曲が持つ、原始宗教の粗暴な儀式という雰囲気がそこに醸し出されきれないのである。

 

ひょっとすると中国人の経験感覚の中にはそういった原始的な宗教儀式のような雰囲気に対するイメージが存在していないのかもしれない。

 少なくとも私の持っている感覚とは違うもののような感じである。

 ちなみに私の原始的儀式のイメージは初代のキングコングの映画に出てくる原住民のイメージである

このキレの弱さによる表現力の弱さに対しては会場にいたほかの聴衆も感じていたようで、終曲しても爆発的な反応はなく、弱い拍手反応に終わってしまった。

 この結果はオケの技術というより指揮者の技術が原因のような気がしており、もっと違う指揮者でのこのオケの演奏を聴きたいと感じた演奏会だった。