洪毅全指揮上海交響楽団 ツェムリンスキー「人魚姫」 | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

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日時:2022年2月26日(土)20:00~

会場:上海交響楽団音楽庁

指揮:洪毅全

演奏:上海交響楽団

チェロ:朱琳

曲目:

マーラー:「葬礼」

チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲

ツェムリンスキー:「人魚姫」

 

 

感想:上海交響楽団の演奏会。

久々のオーケストラの演奏会。指揮者は四川交響楽団の音楽監督を務めている若手の男性指揮者の洪毅全さん。遠目で見ると髪型から昔の井上順二さんっぽい。

一曲目は「葬礼」というマーラーの交響曲第2番「復活」の第一楽章の元になった曲。

元というか、ほとんどそのままに近いといってよい。

ちなみに中国語タイトルは「死の祭」とつけられている。

 途中で若干違うメロディがはいっているため、交響曲とは全く同じではないが、メロディ構成などは概ね同じである。

さて肝心の演奏であるが、マーラーの復活の演奏を何度も体験している身としては緊張感というかエッジが弱い印象に移った。

音の隅々までの細かい目配りがないというか、指揮振りから見ても大まかな音作りといった感じで、細部が雑と言っては言い過ぎなのだが、細かくケアされていない印象を受けた。   

マーラーの復活という曲は非常に緊張感の高い曲で最初から最後まで非常に鬼気迫る音や神秘性を持ったメロディ演奏構成であるのだが、この日の演奏ではそういった神聖な雰囲気は感じられなかった。

ただ楽譜に従って綺麗に音楽を奏でてるだけだという印象である。

指揮者本人としては力の入った指揮ぶりであるが腕がしっかり止まらず流れていると言うか、オケ側はエッジの利いた鋭い音になっていないのでそこまでの緊張感は得られなかったのである。

こういう演奏だと拍手もやや弱くなる。

 

 

二曲目は女性のチェリストを迎えてのロココ風の主題による変奏曲。

さて演奏が始まると、ソリストの音色は軽めで、どうもオケの音色と馴染んでおらず、落ち着きがない。

指揮者は指揮者、ソリストはソリストでそれぞれの音楽を奏でて行ってしまっているので協奏曲的にメロディが絡まっていない。

曲が進んで第一楽章の後半になってようやく少しまとまったかなという状態になったが、オケ側のフルートメロディ運びの見事さによるものという印象で、指揮者が導き出したもののようには見えなかったし、ソリストがきちんとオケと協調できていたわけでもないように映った。

結局、楽章間で拍手をするような聴衆のレベルに助けられ、演奏終了後の拍手はもらえていたが、この曲を魅力の魅力が引き出せた演奏とは到底思えない状況で終わってしまった。

ソリスト単独のアンコールも、綺麗な音色は鳴らしていたがどんな音楽を表現したいのか最後まで見えず終わった。

音色として美しいのだがただそれだけなのである

 

後半はツェムリンスキーの人魚姫。

ツェムリンスキーは名前からロシア人かと思い込んでいたが、オーストリア人のようである。

さてこの「人魚姫」はファンタジーな曲想を持った曲であるが、どうもこの日の演奏を聴いているとファンタジーな音色は確かに聞こえるのだが、指揮者がこの音楽のストーリー性をちゃんと最初から最後までつながったものとして意識して演奏しているのか非常に疑問であった。

この指揮者に限らず多くの中国人指揮者に言えることなのだが、イメージ創出や想像性に乏しいと言う印象で、音楽としては綺麗に奏でるものの、それが雰囲気のイメージや音楽性に繋がっていかないのである。

例えば世界中には民族臭の強い民族楽的メロディがあり、それを再現しようと作曲家は音楽を作曲していたりする。

例えばスペインのジプシー風とか、海の底のイメージとか人魚姫ファンタジー性というものが音楽に織り込まれていたりするのだが、この日の演奏にはそこがあまり現れてこないのである。

音色そのものは作曲者の楽譜通りに弾いていればそれなりのものは表現できるのがストーリー性をそこに表現していないので、音楽が最初から最後までストーリーとして繋がらないのである。

従って音色としては綺麗なものは出てくるが、そこにストーリー性が見えないために聴いている聴衆は綺麗な音が鳴っていたなというところで終わってしまい、感動というものにたどり着けず、曲のストーリー性を受け止められず終わってしまう。

よってこの指揮者はオケのドライブ力はそれなりに優れているのかもしれないが 前半のエッジの弱さや細かい音の気配りの弱さに見られるように イマイチ音楽性の完成度という意味ではやや独りよがりな音楽になり、音楽との良い向き合い方があまり出来てないのではと感じてしまった。

従って終演後の拍手は音楽を受け止めて熱狂的なブラボーが飛んだというよりは、まあまあの普通の拍手が飛んだに過ぎなかった印象である。

また指揮者もカーテンコールではどちらかというとオケの各メンバーに気を使っており、、それなりにソリストの見せ場が多かった曲ではあるのだがそれ以上に気を使っていたという印象だった。

上海交響楽団は優秀なオケだとは思うが、しっかり表現できる指揮者が振らないと演奏力が勿体ないなと感じる演奏だった。