日時:2021年11月25日19:30~
会場:上海交響楽団音楽庁コンサートホール
指揮:張亮
演奏:上海フィルハーモニー管弦楽団
ファゴット:陳曲
曲目:
イルジー・パウエル:ファゴット協奏曲
ベラ・バルトーク:管弦楽のための協奏曲
感想:
ここ最近、コロナ騒ぎで公演が飛んだり、個人的に都合が悪かったりなどで音楽会に行く期間が空いてしまったので久しぶりの演奏会である。
一曲目はニコライの「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲。
オットー・ニコライは19世紀前半の作曲家で、ベルリンやローマに拠点を置きウィーンフィルの前身にあたる演奏会を開いたいわゆるプロイセン音楽の中心にいた人物で、彼の作品で最も有名な曲がこの「ウィンザーの陽気な女房たち」であろうか。
この「ウィンザーの陽気な女房たち」はもともとシェイクスピアの喜劇の戯曲であり、それをニコライがドイツ語のオペラ化したものである。
いかにも喜歌劇の音楽らしく上品な音色とリズムが心地よい曲である。
演奏に関してはまずまずの出来で、まあオペラタッチな香りを漂わしてもよかったのかなという気もするが、及第点ではある。
続いてパウエルのファゴット協奏曲。
イルジー・パウエルはチェコの作曲家で20世紀初頭に活躍した作曲だが、私は多分初めて耳にする作曲家である。
今日のプログラムは作曲家の並び方を見る限り東欧系の響きをテーマにした組み立てなのかとも思えるが、そういった意味ではこの日のソリストは物足りない。
ファゴット奏者としては下手という訳ではないのだが、引き出しがやや少ない印象で、音符をこなして終わってしまった気がする。
この曲を聴いたことはないのだが、音色的にはもっと東欧の民族楽的音色やリズムが見え隠れするような曲なのだが、そういった面はあまり引き出されずに終始演奏された。
ファゴットのような深い音色の楽器をわざわざ使った協奏曲というのは、あの音色を使いたくて曲を書いたのだと推測され、そこを意識した節回しをするべきなのだと思われ、その点においてこの日の演奏は物足りなかったのである。
なおアンコールにヨーゼフシュトラウスの「憂いもなく」がファゴット6人のアンサンブルで行われ、演奏構成としてはどうかなという面もあったが普段の演奏仲間らしく楽しそうな姿が印象的だった。
そして休憩を挟んでの後半は、バルトークのオケコン(管弦楽=オケのための協奏曲)である。
バルトーク氏自体はハンガリーの生まれであるが、第2次世界大戦を機にアメリカに移住し、この曲は戦争終結前の1943年に作曲された。
戦争が行われていた時代を反映するように暗い序奏が、丁寧に音が運ばれスタートする。
コントラバス(弦バス)8本が並べられており、この編成がこの曲の標準かどうかは知らないがコントラバス8本が並ぶ姿は壮観で見た目も音も迫力もある。
ただ第2主題のバイオリンが被さってきたときに弦バスがバランスを取ったように抑えて聴こえたのは残念で、そのまま遠慮しないでほしかった気がする。
また丁寧であることが災いして、金管のカノンのところは丁寧に音を置きすぎて推進力にかけ、音の伸びは素晴らしかったがややのっぺり単調になりじれったく感じた面もある。
ただこの曲は協奏曲の名の通り、演奏中に各楽器がソロ楽器のように見せ場を作る曲で、そういった意味ではオーケストラの各パートは見せ場を作っていた。
例えば、コーラングレ(イングリッシュホルン)とオーボエのアンサンブルは練習の賜物だなとも感じた。
全体としては概ね良好な響きを見せていた印象だが、やはりリズム面ではやや不満があり、スローな部分で推進力や色彩感に欠ける流れがところどころに見え、聴いている側としても乗り切れない面もあった。
例えばこの曲のファゴット奏者は乗りは良かったのだが、リズムがこの曲としてはやや違う面もあるのではないかなという気がしたのである。
このあたりは今後指揮者に頑張っていただきたいところである。
まあ細かいところで不満がないわけではないが、それなりにまとまっていた「オケコン」だった気がする。