カーステン・ドネヴェーグ指揮シュヴァルツヴァルト室内管弦楽団(黒い森室内管弦楽団) | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

上海鑑賞日記(主にクラシック)

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期日:2019年11月20日19:30~

会場:上海東方芸術中心コンサートホール

指揮:カーステン・ドネヴェーグ(Karsten Donneweg)
演奏:シュヴァルツヴァルト室内管弦楽団(Schwarzwald Kammerorchester)

Pf::陳篠[女燕](女へんに燕)

fg::ハンノ・ドネヴェーグ(Hanno Donneweg)

Vl:グサ・アンネ(Gesa genne)

 

曲目:
ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調 第1楽章
モーツァルト:ファゴット協奏曲変ロ長調
モーツァルト:交響曲第29番イ長調

何占蒙/陳鋼:梁祝ヴァイオリン協奏曲

アンコール曲:

ヴィバルディ:ヴァイオリン協奏曲第4番「冬」より第1楽章

感想:

ドイツの中堅どころの室内楽合奏団で通称黒い森室内管弦楽団。

最近、意識して選ばないと大曲ばかりになってしまっているので、今回もモーツァルト回帰のためにこの演奏会をチョイス。

 小さな楽団で、正確には数えなかったが20人程度の規模。

 でオケも小規模なら今回は聴衆も非常に少なく、会場の座席の3割も埋まってなかったのではなかろうか?

 まあ用意されているホールキャパが大きすぎるのであり、600人程度の室内楽用ホールでやるべきだったと思うが、上海にはそのサイズの質の良いハコはないのでこうなってしまう、

 よって大は小を兼ねるで、音響のマシなこのホールということになる。

 

 一曲目はショパンのピアノ協奏曲第1番の第1楽章のみの弦楽合奏編曲版。

 フルオーケストラ版だとトランペットとかティンパニとかが入る曲だが、小編成なのでその奏者がおらず、ピアノ以外は弦楽器だけで演奏された。

 さて小規模の楽団の演奏は音が揃うので心地よく、台湾出身のこのピアニストも特別うまいというほどではないが、オーソドックスなスタイルで卒なく鳴らしており、第1楽章で終わるのがもったいないような良い演奏だった。

 

  2曲目はモーツァルトのファゴット協奏曲。

 ソリストは指揮者とファミリーネームが一緒なので恐らく兄弟なのであろう。

 たぶんこのソリストが弟なのではないか。

  ファゴットの音色をこうやってじっくり聴くという機会は少ないし、実に暖かみがあって奥深く、この大きすぎると思われたホールにも十分に音楽が満ちる。

 ソリストの演奏スタイルは若干ガニ股気味ではあったが、それなりに優雅で格好いい。

 この方のファゴットの音色というのはサックスフォンに近く、目を閉じていると聞き間違いそうなくらい音に膨らみがあった音だった。

 以前サックスでバッハの無伴奏組曲を演奏するという企画の録音があったがあれに近い印象なほど音に厚みがあり良く響いたのである。

 

 そして後半はモーツァルトの交響曲第29番から始まる。

 同じ交響曲の名が付きながら、マーラーやブルックナーの同じジャンルの曲とは思えぬほど、小規模編成で弦五部のほかはオーボエとホルンだけである。

 チェロを除いてスタンディングで演奏され、そもそも優しい印象の曲であるが、やや強めのアクセントをつけて演奏された。

 ただそのアクセントを意識しすぎたのか、ホルンの1番はやや力みすぎて音が強すぎた印象だった。

 そのほかはなかなかノリよく演奏が行われていた印象である。

 大規模な曲だと個々の奏者の歌い方は指揮者が指示して初めて成立するところがあるが、この規模だと、個々がきちんと歌わないと音楽にならないような曲であり、それゆえに歌う能力が求められている、

 まあそこが音楽の基本なのだと思うが、あまり歌えない上海のオケなどとは明らかに差があり、彼らももう少しモーツァルトなどの古典を取り上げ、歌うことを訓練したほうがよいのだろうと今回の演奏を聴いて思ったのである。

 

 そして最後の曲として「梁祝」という中国人作曲家の何占蒙さんと陳鋼さんが作曲したヴァイオリン協奏曲が演奏された。

 「梁祝」というのは「梁山伯と祝鋭台」の名前の略で、二人の男女の悲恋を描いた中国の非常に有名な民間説話でこの曲はそれをイメージした曲の構成になっている。

 のどかな農村風景をイメージするような「中国昔ばなし」のような雰囲気で始まる。

 ソリストの演奏自体はヴァイオリンで行われるが、その旋律は明らかに二胡をイメージさせるもので、節回しというかメロディも二胡の演奏がベースであろう。

 特に有名な「賽馬(競馬)」という曲にも似た速いテンポの部分では、やはり二胡の演奏技術がベースにあるメロディ構成という印象が強かった。

 またオケの節回しもやはり中国の民謡チックであり、西洋の歌い方とは明らかに異なる。

 ただ、その分だけドイツの演奏家にはやはり難しいようで、日本人の私が聴いても少し不器用に節を回している部分があったように感じられた。

 やはり音楽というのは言語と深く結びついており、楽譜に書かれている情報だけでは中国的な細かいニュアンスまではなかなか再現しきれない面があるのだろう。

 恐らく今回台湾人ピアニストの彼女が懸命にサポートしたと推測され、ややぎこちないながらも中国っぽい雰囲気の曲になるようには何とか仕上がっていた。

 中国人聴衆の耳にどう伝わっていたのかは分からないが、演奏終了後にはそれなりに暖かみのある拍手が送られていたような気がする。

 ややぎこちない中国民謡メロディではあったものの、悪くない演奏ではあったのである。

 

そしてアンコールはヴィヴァルディの四季の冬から第一楽章で、弦楽合奏のいい演奏を聴かせてもらった。

中国に来てから四季は聴いてなかったので、久々の経験にちょっと感激した。

バロックの響きは心地よいのである。