「ヘアサロン イナミ」のポスター vol.14 | 渡辺修也オフィシャルブログ「雨ニモマケズ」Powered by Ameba

「ヘアサロン イナミ」のポスター vol.14

前回は画中の人物の視線を意図的に鑑賞者に向けることで、絵画の世界に鑑賞者を引き込む効果があり、それはフェルメールの絵やベラスケスの伝説の作品「ラス=メニーナス」に類似するものがあると書きました。

しかしこれらの効果をイナミさんのポスターはさらに細かな計算の上に成り立たせているのです。もう一度屋台の部分をみてみましょう。

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①背中向きの男
②正面を向いているがのれんで顔の隠れた男
③顔は描かれているが、下半分がぼやけている男
④顔全体は描かれているが、メガネと口ひげの男

という4人が描かれています。
さて、お気づきでしょうか?この①~④へとアノニマス(匿名的)な順に人物が描かれているのです!徐々に人物として個人が特定されていくパーツが増えるように、最後のメガネと口ひげの男までの巧みな視線誘導がなされているのです!!

しかも最後の鑑賞者に視線を向ける段階ですら、メガネと口ひげという、匿名性の一線を越えない描写に留めているあたりに底知れぬ深さを感じます。フェルメールもベラスケスも鑑賞者に向いている人物はちゃんと目を描いているのですから。

さてここまで来てふと目線に入るのが右下の子供です。

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驚くべきは周囲が明るんでいるこの描写です。実は「メトロに乗って」では演出意図として「闇市のシーンは子供が主役」というコンセプトで創っていました。復興の、日本の未来を握っているのはやはり子供であるというその想いを込めていたのです。

しかしそれは内々の意識の問題であって、決してあからさまに外に示すようなものではありませんでした。もちろんイナミさんにもそんな意図は一言も話しておらず、それだけにこの表現は驚きなのです。

そしてそんな子供が見つめているのが中央にいるメインモチーフの予科練となります。
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ここまでの一連の視線誘導によるドラマがこのドラマに込められているのです。そしてこれらはセザンヌ、バルテュス、ベラスケスといった錚々たる画家と同じ技法を、しかしさりげなく、施すことでこのポスターはその深みを内包することに成功しているのです。

恐るべし、イナミさん。