Midnight Magic〜その6 | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

Kyoto Jazz Massive 沖野修也 Official Blog

 

おそらく、前日の帰りタクシーの中で、あるいは、来日公演2日目のBlue Noteに向かうタクシーの中で、ユウジさんに辛抱強く交渉して頂いたに違いない。ユウジさんが遂にロイさんを口説いたからこそ、彼はやる気になったんだと思う。僕は、折角決まりかけたレコーディングを諦め(厳密には来日前、前日を含めると3度目)、ユウジさんに新たな提案をしてみた。

 

「やってもいいってとこまで来たので、僕がNYに行って録音するのでもいいかなと・・・」

 

しかし、ユージさんはこの案には否定的だった。僕のオファーをマネージメントにずっと伝え続けて来て、ロイさん本人とも交渉を成功させただけに彼の言い分に説得力があった。NYで捕まえるのは難しいだろうし、気が変わってしまうかもしれない。チャンスは今しかない。日本にいる間にレコーディングを敢行するしかないとユージさんは断言した。

 

翌日、僕抜きでレコーディングする選択肢がなかった訳ではないが、取材の前に早く来てもらうことが可能かどうかも判らないし、それこそ一晩明けたら彼の気が変わっているかもしれない。つまり、今夜2部公演の後にやるしかない。選択肢はそれしかないのだ。僕は楽屋のアテンドの方に、Blue Noteサイドの窓口である小野さんに電話をかけてもらって、僕の決意を打ち明けた。

 

「小野さん、今夜、ライブの後にステージで録音にトライしようかと・・・」

 

ロイさんの鉄琴(ヴィブラフォン)は、電子タイプで、ケーブルがミキサー卓に直結している。つまり、Blue Noteのエンジニアの方が、鉄琴のチャンネルに送られて来る音を録音出来れば、理論的にはロイさんのプレイを確保できる。音のデータを後でコンピューターに取り込み、デモ・トラックに貼り付ければ、この先生音に差し替えるキーボード、ドラム、ベースとの擬似セッションは完成する。行ける。これでなんとかなる。僕は、自分の計画の成功を確信した。

 

2部の演奏も終盤に近づくと、僕はDJブースに再度向かう。2部の終演後も僕はレコードをかける役だったから。鳴り止まぬ拍手。誰もがメンバーが再びステージに戻ってくることを期待している。しかし、僕はアンコールがないことを知っていた。僕がロイさんの曲をかけ始めると会場内の照度がゆっこりと上がっていった。

 

おそらく僕が回している間に、友人や関係者が楽屋を訪れロイさんと歓談するだろう。そして、僕が仕事を終えた時、ステージで遂に録音が始まるのだ。

 

僕は、ロイさんの曲をかけ続けていたが、自然な流れでCro-Magnon ft.Roy Ayersの’Midnight Magic’を選択することになった。僕に先駆け行われた日本人バンドとロイさんのコラボ。たまたまUSBに入れていることを思い出し、ロイさんの’Sanctified Feeling’からカット・インで移行した。実にグルーヴィーで、曲の後半に向かうに連れてダイナミズムが増し、聴く者を高揚させる名曲だ。僕は自分で選んでおきながら、その曲が自分に与えるプレッシャーを予測していなかった。果たして、この曲に拮抗するクォリティーを僕は獲得できるのだろうか?

 

その時だ!またもユージさんがブースにやって来た。

 

「まだDJ終わらないんですか?そろそろ持たなくなって来て、これ以上ロイさんを引き止めるのが・・・」

 

一難去ってまた一難。彼が帰ってしまえば一巻の終わりだ。(つづく)