Midnight Magic〜その3 | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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僕は、かつてお会いした事がある旨を伝え、彼に捧げた曲を作り、それに参加して欲しい事を下手な英語で説明した。今回無理でも、いつか!実現したいと。で、誰と話せばいいですか?と。

 

するとロイさんは、今、俺と話せと仰るではないか(やはりマネージャーから何も聞いていなかったのか?それとも・・・)。彼の表情から笑顔が消える。ビジネスに臨むシビアな業界人の顔つきだ。僕はおもむろに取り出したMacbookのiTunesを立ち上げ、デモをかけ始めた。楽屋の静寂を打ち破るブギーでエレクトリックなブロークン・ビーツ。

 

「ボーカルは誰だ?」

 

僕の企みを見透かしたようなニヒルな笑みでロイさんは尋ねて来た。

首を小刻みに歌しながらリズムに自分をシンクロさせて行く。

 

「オー、イェー、グッド・ソング!」

 

彼の視線が僕の瞳に突き刺さる。

 

「何なら明日機材を持ち込んで開演前にでもここで録音できます!」

 

思わず僕は無茶な提案を口走った。

エンジニアも機材も何の手配も出来ていない。約束を取りつけたらきっと誰かを捕まえられる筈だと思ったから。

 

するとロイさんが何かを言い始めた。ただでさえ、英語が苦手な上に、ロイさんの舌が舞うような話し方だと更に難易度が上がる。眉間にシワを寄せ、投げやりなポーズで僕を振り払うような仕草を見せた。そして、ここからは急に言葉が耳に入って来た。

 

「俺は遠くから来ててとても疲れているんだ。もう、ホテルに帰りたいんだよ。おい、みんな!撤収するそ、撤収だ」

 

楽屋に沈黙が襲いかかる。ユージさんも小野さんも伏し目がちだ。楽屋まで同行してくれたDJ KAWASAKIと瞳ちゃんも僕にかける言葉がないと見えて突っ立っている。永遠のヒーローに拒絶された悲しさと、僕を憐れむ関係者に気を使わせて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。ユージさんに帰りの車で説得してみると声をかけて頂いたけれど、僕は衝撃が強すぎてその言葉に何の望みも抱けなかった。正直、スタジオやエンジニアをばらして、一旦は諦めたから、そもそも今回のレコーディングには期待してはいなかった。ただ、デモを聴いた時の反応に舞い上がってしまったのは確か。そこから一転しての断絶に、自分の曲はおろか、自分の存在までが否定されたような気がして僕の心は真っ二つに折れてしまったのだ。

 

タクシーの中で差し障りのない会話をDJ KAWASAKIと交わした。上司の無様な姿を見せて悪かったなーと思いつつ、敗れ去ったものの果敢にトライする姿から何かを感じ取ってくれたらなーとも。池尻大橋で僕は先に降りたので、彼に5千円札を渡した。それは上司のプライドか・・・。雨は既に止んでいたにも関わらず、僕は傘をさして帰路に着いた。(つづく)