最終公演 | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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Kyoto Jazz Massive 沖野修也 Official Blog

これが
最後の夜。

もう少し頑張れば、
終わる。

僕は
大きく息を吸い込んで、
ゆっくりと
吐いた・・・。




日曜のサンフランシスコ。
しかも、
今日の僕の出演は
告知されていない。

それは、
HACOBOが
ブッキングしてくれた
もう一つのギグで、
サンフランシスコで
新しく始まった
ジャズ系パーティーでの
シークレット・ゲスト
としての
プレイでもあった。

会場の
POLENGは、
11時までは食事ができる
レストラン・バーになっていて
ベトナムやタイを中心とした
様々なアジア料理が楽しめる店として
繁盛していた。

僕が、
店に着いた時も
満席。

バーでしばらく飲んでいたけど、
活気もあって
雰囲気は悪くなかった。

それでも、
レストラン営業が終わる11時前には
殆どの人々が
満ち足りた笑顔で
席を立ってゆく。

テーブルが片付けられ
即席のダンス・フロアーが出来上がる。

HACOBOが、
スローなジャズで
店の空気を変えた。

アジアの
何処かにある
食堂街を彷彿とさせた喧噪は
なりを潜め、
ここが
アメリカであった事を人々に
思い出させるかのような
クールな選曲。

それは、
秘密のパーティーに
アクセスする暗号を連想させた。

わずかに残っていた
食事目当てのお客さん達は
まるで音楽が聴こえないかのように
バー・カウンターに寄りかかったり、
壁際に残された
ソファーに腰を下ろして
大声で
一緒に来た仲間と
会話を続けている。

僕は
丁度
12時に替わり
クラブでは
ピーク・タイムにも使える
イントロの美しい
ジャパニーズ・ジャズで
静かに
プレイを
スタートさせた。

それは、
パーティーの開始を告げる
高らかな
宣言
なんかではなくて、

僕の事なんか
ちっとも気にしていない人達ですら
気持ち良く
酒が進むように
提案してみた
BGMの一曲目
でしかなかった。

それでも、
HACOBOの奥さんに紹介された
日本人の女の子だけは
反応してくれて、
誰もいない
空っぽのフロアーの真ん中で
一人で騒いでいる(苦笑)。

彼女は
一向に気にしていないようだったけれど、
僕は
彼女が
僕の人気のなさに
ショックを受けない事(笑)と
心の中で祈っていた。

このイベントのプロモーターの
ブライアンが
早速ブースにやって来て
イベントが終わってもいないのに
しきりに
僕に謝っている。

「人が少なくて、ごめんね。日曜だし、告知もできなかったし・・・」

ブライアン。
そんなに気を使わなくていいんだよ。

僕は、
この旅で
少しだけ
強くなったんだ。

だから、
心配しないで
僕がかける曲を
君も楽しんでおくれ。

誰も
聴いちゃいない、
誰も
踊っちゃいない。

それでも
僕は
たった一人で
回し続けなければいけないんだよ・・・。

その内
あの娘も
何処かに
行ってしまっていた。

背後から照りつける
照明が強過ぎて
店の様子は
DJブースから
よく見えなかったけれど、
その明かりが
照らし出す
フロアーに
誰もいない事だけは
手に取るようにわかった。

それでも僕は
前の曲に続けても
違和感の無い曲を選び。
少しでも
そこに居合わせた人達の
気分が良くなるように
ベストを尽くす。

再び、
深い深呼吸。

もう、
傷つく事も
ブルーになる事もない。

最後の夜は
僕も
楽しまなきゃ。

友達がブースの近くに集まってきては
何を飲みたいか聴いてくれる。

そのせいもあって、
徐々に
店内に
人が増えて行くような気がした。

よくよく
聞いてみれば
明日は
祝日らしい。

一緒に
ディナーにいった
APPLEのデザイナー
ユージーンが
拳を僕に向け親指を立ててくれている。
彼女のローラが
僕に
友達を紹介してくれる。

HACOBOの奥さんが
手を振っている。
金曜の夜に一緒にプレイした
シュウヘイ君が
モントレーから
帰って来たその足で
遊びに来てくれた。

プライベート・パーティーの
音楽係だと思えば
いいじゃないか。

そう思えば
僕は
なんとか
この状況を
乗り切れる筈だ・・・。

色々あったけど、
今回のツアーは
とても
有意義な旅だった。

友達にも会えた。
新しい友達もできた。
レコードも買えたし、
いいレストランに
何件も連れて行ってもらった。

そして
何よりも
大きかったのは、

自分の事が
よく判った事。

限界と
可能性。

その間で
いつも
揺れ動く、
僕の
ひとつしかない
ちっぽけな
魂・・・。

生ジャズ・オンリーの
セットを予定していたけれど
例のノリのいい女の子が
ブロークン・ビーツが
好きだって言うから
打ち込みを3曲ほど
混ぜてみる。

「私のためにかければいいんだよ!」

なんて言ってくれてたけど(励ましてくれてありがとう)、
そういう訳にもいかないんだ・・・。

僕は
真の
プロ
だから。

そして
再び生音に回帰した時、

奇跡が
起こった・・・。

人々が
次々に
踊り始めたのだ。

目を凝らして
店内を見回すと
いつのまにか
凄く込み合っている事に気付いた。

エモーショナルなサックスが合図となって
堰を切ったように
皆がダンス・フロアーに押し寄せて来たのだ。

まるで
大河を渡る
野生動物のように(笑)。

またもや、
僕を救ったのは
SADEの
「RED EYE」。

その後に
ソウルフルなラテン・ジャズ、
アフロ・テイストのラテン・ハウス、
そして、
ネイティヴなアフリカ音楽から、
アフリカのジャズ・ファンクを続けてみる。

パーティー。
それは、
紛れも無く。
本物のパーティー。

歓声があがる。
両手を挙げて
飛び跳ねている人がいる。
そして、
皆が
狂ったように踊っていた。

ラテンとアフロの異種配合のような
ボーカルのハウスから
再びラテンのリズムを持つジャパーニーズ・ジャズヘ・・・。

照明が明るくなった。
閉店の時間だ。

最後にかけたのは、
SLEEP WALKERの
「ECLIPSE」。

ジャズ・ダンサー達の
バトルが始まった。

それを
取り囲むオーディエンス達も
まだまだ
ダンスを止めようとしない。

セキュリティーが
ブースにやって来て
頼むから音を止めてくれと
申し訳なさそうに
懇願している。

判ったよ。
実は、
僕は
君が来るのを待っていたんだ。

HACOBOが
マイクで僕を紹介する。

拍手喝采。
更に大きな歓声があがった。

「もう一曲、聴きたいよねー!!!」

HACOBOの煽りに、
オーディエンスが大喜び。

「店の人に止められないように、
バーテンにチップを握らせるんだー!!!」

HACOBOが絶叫する。

いいのかな?

フロアーにいる人達の顔を
一人一人
確かめる。

ホントに
いいのかな?

HACOBOが
僕の方を向いて
頷いた。

憂いを帯びた
フェンダー・ローズが
ダンス・フロアーに
優しく広がってゆく。

皆が顔を
見合わせる。

そして、

ブラスのブレイク。

フロアーにいた
全員の両手が挙がる。

僕は
レオン・ウエアーの
「WHY I CAME TO CALIFORNIA」
をアンコールに選んだ。

それは、
日本を経つ前から
サンフランシスコで
絶対にかけようと思って
持って来ていたのに、
金曜の夜には
かけられなかった
みんなへの
プレゼント。

大合唱が起こる。

HACOBOが
奥さんとダンスしている。
シュウヘイが
ブースに飛んで
僕を誉めてくれる。

笑っている人がいた。
そして、
泣いている人も、
いた・・・。





サンフランシスコの空港で、
成田へ向かう便を待ちながら、
僕は
この文章を書いている。

チェック・インの時に渡された
チケットには
座席番号が印されていない。

ゲートで
その旨を伝えると
「名前を呼ぶから、待ってなさい」
と日本人のネーム・プレートをつけた
スタッフに
英語で
冷たく
あしらわれた。

既に搭乗が始まっていて、
行列が出来ているというのに
一向に
自分の名前が
呼ばれる気配はない。

僕は
待ち合いの
シートに深く腰掛け
窓の外を眺めた。

快晴。
もの凄く眩しい
朝の光が
カリフォルニアに
降り注いでいる。

僕は
最後の一行を書き終え
エンター・キーを
中指で
叩くと、
静かに
あの曲を
口ずさんでみた・・・。